デクスター・ゴードン『GO』

 和田誠村上春樹『ポートレイト・イン・ジャズ』(新潮文庫 2004)が面白い。ポートレイト(和田誠)とエッセイ(村上春樹)で、五十五のジャズ・ミュージシャンを紹介している。ただそれだけの本なのだけれど、このコンビがする「ただそれだけのこと」がどんなに面白いか、ぜひ本を手に取ってみていただきたい。なお、一人(一グループ)に一枚、アルバムを紹介しているが、いずれも名盤というよりは村上氏の愛聴盤。エッセイともども、文章にジャズへの愛が語られていて、「素晴らしい! これを聴きなさい!」調の名盤ガイドよりずっと、聴いてみたい、という気にさせてくれる。
 さて、その中でとくに印象に残ったのが、デクスター・ゴードン。本に紹介されていたのは、もっと後年のアルバムだったけれど、初めてなので、代表作と言われる『GO』を聴いてみた。

《収録曲》1 Cheese Cake / 2 I Guess I'll Hang My Tears Out to Dry / 3 Second Balcony Jump / 4 Love For Sale / 5 Where Are You / 6 Three O'Clock in the Morning
《パーソネル》デクスター・ゴードン(テナーサックス)、ソニー・クラーク(ピアノ)、ブッチ・ウォレン(ベース)、ビリー・ヒギンズ(ドラムス)1962年8月27日録音

 最初の「チーズケーキ」に、昔の「ピンナップ」(もっとも、ぼくがこの言葉を知ったとき、すでに過去のものだったが)の金髪水着美女を連想したのだが、やはりタイトルどおりなのか、軽快なんだけれど、どこかしらエロティックなテナーの音に、いきなり引き込まれた。続く二、三曲目も、タイトルが面白い。「おい、振られたからって、早まった真似はするなよ」なんて言いたくなるタイトルの二曲目はセンチメンタル。三曲目も「二階のバルコニーから飛ぶなんて何事か」などと思っていると、なんとなく浮かれて飛びそうなようにも聴こえてくる。二階ならまあ大怪我もしないだろう。六曲目は、午前三時とは思えない、爽快な賑やかさ。もう三、四時間遅いんじゃないのかな。一日のはじまりによく似合います。
 サイドのドラムスとベースの人も、聴くのは初めてだけれど、ピアノのソニー・クラークは、ほどよく俗っぽい弾き方をここでもしていて、やっぱりかっこいい。
 デクスター・ゴードンのテナー、あともう何枚か、追いかけて聴きたくなってきた。