2008-01-01から1年間の記事一覧

天外消失

さて、ジャズが流れる暖かい部屋で、ミステリを供に夜更かししてみましょうか。 こんなとき、うってつけなのが、気早なたとえですが、海外ミステリの「福袋」よろしきアンソロジー、『天外消失』(ハヤカワミステリ1819)です。こちらも、今月はじめに出たば…

ホレス・パーラン『ヘディン・サウス / HEADIN' SOUTH』

《収録曲》Headin' South / The Song Is Ended / Summertime / Low Down / Congalegre / Prelude To A Kiss / Jim Loves Sue / My Mother's Eyes 《パーソネル》ホレス・パーラン(piano)ジョージ・タッカー(bass)アル・ヘアウッド(drums)レイ・バレッ…

『荒野のホームズ』など

シャーロック・ホームズもののパロディやパスティーシュは結構好きなのだが、西部劇の世界で、となったら、ちょっと考えてしまう。 スティーヴ・ホッケンスミスの『荒野のホームズ』の第一印象は「なんだか怪しげだなあ」というばかりで、だから原書で見たと…

ジョン・コルトレーン DEAR OLD STOCKHOLM

《収録曲》Dear Old Stockholm / After the Rain(1963年4月29日録音)One down, One up / After the Crescent / Dear Lord(1965年5月26日録音) 《パーソネル》ジョン・コルトレーン(tenor saxophone) マッコイ・タイナー(piano) ジミー・ギャリスン(bass)…

カシタンカ・ねむい 他七篇

子供の頃、大好きだったお話があった。小学校の図工の時間で「お話を読んでその場面を描く」という課題が出たときに、絵に描いたほど好きで、どんな話かというと、飼い主とはぐれた犬が不思議な冒険をする、といったようなものだった。耳が大きくて肢の短い…

「モルグ街の殺人」

ガストン・ルルーは『黄色い部屋の謎』(1907)で、この事件が「モルグ街の殺人」や「まだらの紐」以上のものである、としたうえで、少年探偵ルールタビーユにホームズを揶揄させている。これはきっと、アーサー・コナン・ドイルが『緋色の研究』(1888)で…

(前置き)

本題に入る前に、御礼を。 この『暢気倉庫通信』をはじめたのが、3月22日。アクセスカウンターを設けたのが、リー・モーガンの『Rumproller』の感想を書いた5月29日で、2ヶ月ほど後のことになります。 昨日、アクセスが10,000を超えているのに気づきまし…

ビル・エヴァンス・トリオ『サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』

〈収録曲〉グロリアズ・ステップ(テイク2)/マイ・マンズ・ゴーン・ナウ/ソーラー/不思議の国のアリス(テイク2)/オール・オブ・ユー(テイク2)/ジェイド・ヴィジョンズ(テイク2)■ボーナス・トラック:グロリアズ・ステップ(テイク3)/不思議の…

ポール・オースター《ニューヨーク三部作》

ジャック・ロンドンの『火を熾す』(スウィッチ・パブリッシング)を読んだら、巻末に、《COYOTE》という雑誌の広告が載っていて、それを見て驚いた。その雑誌のある号に、ポール・オースターの CITY OF GLASS が柴田元幸さんの訳で、『ガラスの街』として掲…

ビル・エヴァンス『EXPLORATIONS』など

ビル・エヴァンスの『PORTRAIT IN JAZZ』の新しい版が出ている、と聞いたので、しばらく探していたのだが、ついこのあいだ、ようやく手に入った。《収録曲》Come Rain Or Come Shine (Take 5) / Autumn Leaves / Witch Craft / When I Fall In Love / Peri's…

星新一『ボッコちゃん』など

ふと思い立って、星新一の『ボッコちゃん』を読んでみた。 新潮文庫 2007年89刷(1971年初版) 「星新一のショートショート」と聞くと、中学生くらいの頃に熱中したなあ、という人は多いことだろうし、ぼくもその頃、やはりよく読んだものだった。が、二十代…

野性の呼び声/海の狼

短篇集『火を熾す』が面白かったので、ジャック・ロンドンの作品を続けて読んでみた。アメリカ文学という言葉のもと、やや堅苦しい扱いをされている彼の作品だが、『火を熾す』に収録されたものは、彼が生活のため、一般向けの雑誌に書いたものだったわけで…

【映画】その土曜日、7時58分

別れた妻への慰謝料も、娘の養育費も払えず汲々とするハンク。彼とは対照的に功成り名を遂げた兄アンディは、弟に強盗を持ちかける。どうやら彼もまた、金に窮しているようだ。身から出た錆で大金を必要とすることになった兄弟が狙うのは、父チャールズが経…

火を熾す

『柴田元幸翻訳叢書 ジャック・ロンドン 火を熾す』(スイッチ・パブリッシング 2008)は、ぼくにとっては、最高の出版企画だ。名手の名短篇を、第一人者の翻訳で読めるのだから。 訳者あとがきによると、ロンドンの短篇小説は二百篇を数えるという。その中…

極限捜査

ミステリの中でも警察小説が好きで、《87分署》シリーズや《マルティン・ベック》シリーズを通しで読んだり、他の作家が書いたものにも、あれこれ手を出したりしている。 オレン・スタインハウアーの『嘆きの橋』は、第二次大戦終結後まもない頃の東欧を舞台…

『紳士同盟』ほか、コン・ゲーム小説

マシュー・クラインの『キング・オブ・スティング』が面白い。コン・ゲームものは書くのが難しいことだろうに、これだけ秀逸なものに出会うと、嬉しくなる。 主人公キップ・ラーゴが、さまざまな詐欺の手口を紹介しつつ、ラスヴェガスの大物に仕掛けるゲーム…

ホレス・パーラン『アス・スリー』

《収録曲》アス・スリー / アイ・ウォント・トゥ・ビー・ラヴド / カム・レイン・オア・カム・シャイン / ウェイディン / ザ・レディ・イズ・ア・トランプ / ウォーキン / リターン・エンゲージメント 《パーソネル》ホレス・パーラン(p) ジョージ・タッカー…

【映画】落下の王国

なんとも不思議な映画だ。 舞台はロスアンゼルスのとある病院、時代は映画の草創期。 入院患者の一人、五歳の女の子が登場する。名前はアレキサンドラ。彼女はオレンジの木から落ちて、腕を骨折した。そのアレキサンドラが、風のいたずらで出会ったのが、や…

20世紀の幽霊たち

短篇小説は難しい。 めりはりがあって、きれいに決まっていると、あざとく見えてしまうし、率直だと拙く見える。めりはりがあって、きれいに決まっていて、率直で、それでいてあざとくも拙くも感じさせないのが、本当に巧い短篇小説なのだろう。 その、本当…

さむけ

「ハヤカワ文庫の100冊」フェアで、結構な点数の既刊がリニューアルされて書店に並んでいる。どれも良いデザインだが、とりわけ目を惹いたのが、ロス・マクドナルドの『さむけ』。ハードボイルド・ミステリの傑作として名高いこの作品、ぼくが前に読んだのは…

京都宵 異形コレクション

アンソロジーが好きで、こと英米のホラーのものは、原書を買いあさっていた時期があった。『幽霊世界』や『血も心も』、《妖魔の宴》シリーズなどのペーパーバックも持っているが、このように邦訳されたものはほんの一部。ジョー・R・ランズデール編のウェ…

シャドー81

名作として知られているのに、読みたくても手に入れられなかったミステリが、最近になってあらためて書店に並んでいる。前回御紹介した『エヴァ・ライカーの記憶』もそのうちだが、同じ月にこの『シャドー81』が、同様に出版社を移して発売された。 新潮文庫…

エヴァ・ライカーの記憶

1912年4月、豪華客船タイタニック号が沈没。1941年11月、ホノルルでアメリカ人夫婦が殺害され、対応の不手際から警察官ノーマン・ホールは辞職を余儀なくされる。そして1962年1月、小説家となり押しも押されもせぬ地位を手に入れたノーマンのもとに、出版…

「堕天使」がわかる/「世界の魔法使い」がわかる

畏友・森瀬繚氏の近著です。 悪魔事典といった観の『「堕天使」がわかる』は、坂東真紅郎、海法紀光の二氏、オカルティスト紳士録の趣ある「『世界の魔法使い」がわかる」は、静川龍宗氏との共著。ともにソフトバンク文庫から、7月に出たばかり。 一見、最…

《新訳シャーロック・ホームズ全集》

ふと思い立って、光文社文庫の《新訳シャーロック・ホームズ全集》全9巻(アーサー・コナン・ドイル 日暮雅通訳 2006〜2008)を、通して読んでみました。 思えば、初めて読んだミステリが『バスカヴィル家の犬』のジュニア版。小学三年生のときで、これを機…

劇団フーダニット『ナイル殺人事件』

劇団フーダニットの第八回公演『ナイル殺人事件』を見てきました。 アガサ・クリスティの作品には、自作小説の戯曲化も多くありますが、ポアロものの長篇『ナイルに死す』もその中に数えられるとは、知りませんでした。 もっとも、戯曲のほうには、ポアロは…

エリック・ドルフィー『OUT TO LUNCH』

《収録曲》Hat and Beard / Something Sweet, Something Tender / Gazzelloni / Out to Lunch / Straight Up and Down 《パーソネル》エリック・ドルフィー(as、fl、bcl) フレディ・ハバード(tp) ボビー・ハッチャーソン(vib) リチャード・デイヴィス(b) ア…

木曜日だった男 一つの悪夢

無政府主義者の集まりであることをあからさまにして、それゆえに誰も彼らが無政府主義者であることに気づかない。《ブラウン神父》もののチェスタトンらしい、そんな逆説の隠れ蓑をまとう秘密結社に、詩人じつは刑事が潜入し、奇妙な冒険に巻き込まれる、と…

鎮魂歌は歌わない

帯に撃たれた。 「ハードボイルドを愛する作家が書き/ハードボイルドを愛する訳者と編集者が/送り出す熱くブルージーな/ハードボイルド・アクション。」 短いが濃い、ハードボイルド概論としても出色の解説「彼らは殴りあうだけではないのだ」にも、打た…

山下洋輔トリオ『キアズマ』

聴いたまま感想を書いていないアルバムがいくつかあって、その中でいちばん古いのが(といっても、ジャズを聴きはじめたのが最近なのだから、半年ほど前なのだけれど)この『キアズマ』。 山下洋輔という人の名前は、ずいぶん昔からなじみがあって、高校生の…