エヴァ・ライカーの記憶

 1912年4月、豪華客船タイタニック号が沈没。1941年11月、ホノルルでアメリカ人夫婦が殺害され、対応の不手際から警察官ノーマン・ホールは辞職を余儀なくされる。そして1962年1月、小説家となり押しも押されもせぬ地位を手に入れたノーマンのもとに、出版社の社長じきじきに奇妙な依頼が寄せられる。大富豪ウィリアム・ライカーが、タイタニック号の遺留品引き揚げに着手するにあたり、そのルポルタージュを書いてほしい、というのだ。取材を始めたノーマンだが、タイタニック号のスチュワードだった男が取材直後に殺されたことから、この半世紀の一連の事件のつながりを追わざるを得なくなってくる……。

 巻き込まれ型サスペンスさながらのプロット。危険をかえりみず行動し、へらず口をたたくハードボイルド・ヒーローばりの主人公ノーマン。そして、地球上のあちこちを駆け巡り、五十年の歳月を経た謎を徐々に解きほぐしていき、解決に至っては関係者全員を一堂に会する、スケールの大きな本格ミステリでもある。
 半世紀の謎を解く物語なので、長いのは当然ながら、展開の速さ、場面転換の小気味よさ、章ごとに仕掛けられたフックの巧みさで、ぐいぐい読んでしまう。早く先が読みたいのに、読み終えてしまうのがもったいないような楽しさ。大学の創作講座から生まれた小説だというが、この一作のみに終わったとはいえ、作者は優秀な学生だったに違いない。
 ぼくは本作を、まだ十代の頃に単行本で読み、その面白さに驚き、そして酔った。三十年近くたって、この文庫で、まったく変わらない面白さを味わった。まさに傑作というほかない。

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エヴァ・ライカーの記憶』ドナルド・A・スタンウッド 高見浩訳
 創元推理文庫 2008(初刊:文藝春秋 1979)装丁:柳川貴代 + fragment 写真:AFLO
THE MEMORY OF EVA RYKER by Donald A. Stanwood, 1978
http://www.tsogen.co.jp/np/detail.do?goods_id=3885