2011-01-01から1年間の記事一覧

『白鯨』をめぐって

年頭にメルヴィルの『白鯨』を読んださい、ふと気になったことがあり、映画の生き字引のような年長の友人に尋ねてみた。 ジョン・ヒューストン監督、グレゴリー・ペック主演の『白鯨』の日本公開は1956年。その時点で、原作は阿部知二訳、田中西二郎訳、とも…

俳人とUボート

先月、書評サイト「Book Japan」に、西東三鬼の『神戸・続神戸・俳愚伝』(講談社文芸文庫)が取り上げられていた。評者は北條一浩さん。http://bookjapan.jp/search/review/201101/houjo/20110119.html ぼくは俳句のことはよく知らないが、西東三鬼の句には…

ラピエール&コリンズ『さもなくば喪服を』

『さもなくば喪服を』。いちど目にしたら、なかなか忘れられないタイトルだ。これは初戦を控えた闘牛士が、自分の身を案じる姉に言った言葉だということが、最初のページでわかる。 「泣かないでおくれ、アンへリータ、今夜は家を買ってあげるよ。さもなくば…

山田風太郎『警視庁草紙』

明治六年、東京を去る西郷隆盛を、川路利良大警視が部下を連れ見送る、という場面から、この物語は始まる。が、本筋は歴史の表舞台に立つ側にはない。大警視の後ろに控えた部下の一人、六尺棒を担いだ髭づらの油戸杖五郎巡査が、さまざまな怪事件を追うほう…

『白鯨』航海日誌(3)

第二十二章「メリィ・クリスマス」まで読んだところで、前の航海日誌の筆を置いた。が、結局、そのあとも休まず読み続け、とうとう読み終えてしまった。けっして読みやすいとはいえない、いわば破格の小説なのに、文庫の千頁は、いっこうに長い気がしなかっ…

映画『アンストッパブル』

近頃は洋画も邦画も、二時間を超える大作が普通になってしまっているようだ。そんな中で、この映画の上映時間は一時間四十分ほど。やはり映画は、これくらいの長さがいいように思う。 この『アンストッパブル』、ストーリーはいたって単純だ。小さなミスの積…

『白鯨』航海日誌(2)

『白鯨』に難解なイメージがあるのは、おそらくは巻頭の「語源」と「文献抄」の印象が強いからに違いない。だが、これらが鯨の「世界」や「歴史」を示すもの、と気づくと、この航海、さほど厳しいものではない、という気がしてきた。 そして本編、第一章に入…

『白鯨』航海日誌(1)

読みたい、という気持ちはあるのに、読まないでいるうちに年月がたってしまった本は、誰にもたくさんあることだろう。ぼくの場合、その筆頭に挙げられるのが、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』だ。 読んでみようか、と思ったのは昨年末。ならば新年最初の読書…