映画『アンストッパブル』

 近頃は洋画も邦画も、二時間を超える大作が普通になってしまっているようだ。そんな中で、この映画の上映時間は一時間四十分ほど。やはり映画は、これくらいの長さがいいように思う。
 この『アンストッパブル』、ストーリーはいたって単純だ。小さなミスの積み重ねで、無人のまま暴走をはじめた貨物列車。積荷には大量の毒性ある燃料。市街地で脱線したら、大惨事になることは間違いない。偶然、同じ線路を運行していた列車の、ベテラン機関士(デンゼル・ワシントン)とルーキーの車掌(クリス・バイン)が、貨物列車を停めるため追跡する。
 列車暴走の危機。回避のため連携し力を尽くす鉄道会社の面々。筋立てに目新しいところは、さしてない。だが、鉄やグリースの匂いがしてきそうな画面から湧き出すサスペンスに、とにかく圧倒される。
原因のミスは、実際に充分ありそうな、小さなことの連続で、テロや犯罪ではないし、鉄道会社のお偉いさんは、仇役だが悪人ではない。貨車だから人命救助はなく、事故回避だけを正面切って描いている。
 主人公の二人についてさえ、多くは語られない。だが、映画の進行とともに、彼らのことが、だんだん見えてくる。なぜ、彼らがこのような危機にみずから立ち向かうのか、状況も心情も、映像と少ない台詞で伝えきってしまう。もちろんそれは主人公たちだけではない。彼らの家族や同僚たちなど、他の登場人物も同様だ。映画の中に、一人ひとりがくっきりとした存在を見せている。監督はもちろんだが、脚本も良いのだろう。
 強烈なサスペンスが爽快なエンディングを迎えたあとも、急いで席を立たないように。心の隅が暖かくなるエピローグを見逃したら、あなたは後悔することでしょう。

アンストッパブル』 UNSTOPPABLE トニー・スコット監督(2010 アメリカ映画)