2009-01-01から1年間の記事一覧
ダシール・ハメットの『マルタの鷹』は、読んではみたものの、面白さのわからない小説だった。まあ、仕方がないだろう。読んではみたものの、などと言っている奴が中学生だったのだから。もっとも、子供向けのミステリ入門書の名探偵紹介欄では、サム・スペ…
カシアス内藤を見た。 この秋に開かれた、ボクシング関係のあるイベント会場でのことだ。黒い肌の大きな人が、スパーリングを終えた少年の肩を叩きながら話しかけていた。E&Jカシアス・ボクシングジムの内藤会長だ。身のこなしや目の光には、気おされるよ…
植草甚一さん、と、つい「さん」付けで呼んでしまうのだけれど、お会いしたことなどもちろんない。ただ、書いたものを読みはじめた十代の頃から、不思議な親しみを感じていて、かれこれ三十年あまり、勝手にそうさせてもらっている。 図書館で《植草甚一スク…
読んでもいないのに読んだつもりになっている本といえば、この『ジーキル博士とハイド氏』もその代表格になってしまうのだろう。こう書いているぼくも、子供の頃から題名を知ってはいながら、最初に読んだのは創元推理文庫の『ジキル博士とハイド氏』(夏来…
1970年代半ばから90年代末にかけて、合衆国と中米をおもな舞台に、麻薬戦争の渦中で生きる人々を描いた群像劇。この物語が、どこまで事実にもとづいているか、ぼくは知らない。だが、ありうることであり、ここに描かれていることは、今もなお繰り返されてい…
ここ二か月あまり、このアルバムばかり聴いている。 聴きはじめたときは、ヴィブラフォンの音が響きすぎるように思えて、どうも肌に合わなかった。だが、繰り返しているうちに、この音がピアノを引き立てているように聴こえてきた。さらに、このヴィブラフォ…
朝松健氏の百点目の著書は、代表作である〈一休シリーズ〉の短編集となった。 収録された六篇のうち、五篇までが《異形コレクション》に発表されたもの。だが、一冊にまとめられたものを続けて読むと、著者が一篇ごとに込めた気迫を、あらためて感じる。どの…
ハメットの長篇の中で唯一、古い(そして、読むのに努力を要する)翻訳で残されていた本作が、ついに小鷹信光氏の新訳で刊行された。旧訳は五十年以上前のもの、いま批判しても仕方ないだろうが、筋を追うだけでさえ頑張らなければならなかったのは確かで、…
「名探偵」という言葉には、敬意と称賛が含まれている、と思い続けてきた。が、それだけではないことに、あらためて気づいた。懐かしさと、もうひとつ、悪意のない「からかい」のような可笑しさがある。ことに、何人もの名探偵が一堂に会する物語、たとえば…
日本でもハロウィーンを楽しむ人が増えてきたようだ。下町で、悪魔の三叉矛を持った女子中学生の一団とすれ違った。『スター・ウォーズ エピソード1』のダース・モールや、『スクリーム』の絶叫仮面など、思い思いに仮装した小学生たちが、その中の一人のお…
この本の「まえがき」に、こんな言葉が引用されている。 半ぶん大人の少年か 半ぶん少年の大人が ひとときなりとも楽しめればと 下手な趣向を凝らした次第 コナン・ドイルの『失われた世界』の巻頭にある四行詩だ。この「まえがき」に書かれているように、こ…
読んでいるあいだに、昔のことを思い出した。 探しても探しても見つけられなかった『シャイニング』が文庫になったときは、狂喜しながら飢えたように読みふけった。 長らく邦訳を待っていた『IT』の、巨大な上下巻を抱えて帰り、コーヒーをかぶ飲みしなが…
この夏にリリースされた廉価版ジャズCDの中に、フィリー・ジョー・ジョーンズの『BLUES FOR DRACULA』(RIVERSIDE)があった。〈収録曲〉1 Blues for Dracula / 2 Trick Street / 3 Fiesta / 4 Tune-Up / 5 Ow! 〈パーソネル〉フィリー・ジョー・ジョーン…
子供の頃、少しだけ読んだ記憶のある宮沢賢治の作品を、読み返したくなった。 きっかけになったのは、ひらいたかこさんと磯田和一さんの『イーハトヴ、イーハトーボ 賢治の居た場所』(河出書房新社 1996)。《旅の絵本》シリーズ(東京創元社)でヨーロッパ…
翻訳ミステリーの世界をより盛り上げていこうと、翻訳家の方々が新たな運動を始められた、とのこと。翻訳ミステリーを読んで育った者の一人として、この運動に賛同し、以下に御紹介することで、支援の第一歩とさせていただこうと思います。http://d.hatena.n…
和田誠・村上春樹『ポートレイト・イン・ジャズ』(新潮文庫 2004)が面白い。ポートレイト(和田誠)とエッセイ(村上春樹)で、五十五のジャズ・ミュージシャンを紹介している。ただそれだけの本なのだけれど、このコンビがする「ただそれだけのこと」がど…
劇団フーダニット創立十周年記念公演『罠』(PIEGE POUR UN HOMME SEUL par Robert Thomas, 1960)を見てきました。 家出して十日目に、妻がようやく戻ってきた……かと思ったら、来たのは知らない女。だが、新婚旅行の写真は消えてしまっていて、本当の妻はど…
ページターナーがひしめく翻訳ミステリの中に、できるだけじっくり時間をかけて、ゆっくり読むほど楽しみの増す、精緻な本格ものが登場した。ジム・ケリーの『水時計』だ。 舞台はイングランド東部、ケンブリッジシャー州の小都市イーリー。晩秋の夜、洪水が…
物語に登場する「泥棒」は、現実のものとは違って、どこかしらユーモラスなイメージがあるように思う。そういえば、子供の本にも、『大どろぼうホッツェンプロッツ』なんて、楽しいのがあったっけ。 でも、それはドートマンダーのせいだ、と、ぼくは勝手に決…
ジュール・ヴェルヌと聞いて、『八十日間世界一周』や『海底二万海里』、『十五少年漂流記』や『地底旅行』を挙げる人は多いことだろうが、『神秘の島』と言う人は、少ないのではないだろうか。しかし、それは単に、この四篇の代表作に比べ、本が手に入りに…
……彼(ヴェルヌ)は単なる科学的紙上発明者なのではなく、むしろ秀れたストーリー・テラーであり、冒険ロマンの先駆者なのである。 石上三登志「〈キング・コング学〉入門」(1976)より ぼくは子供の頃、スティーヴンスンやヴェルヌに出会う前に、アポロ11…
短いながら夏休みになったので、久しぶりに映画館に行ってみることにした。で、見たのが次の二本。「湖のほとりで」LA LAGAZZA DEL LAGO(2007年 イタリア映画) http://www.alcine-terran.com/lake/index.html アンドレア・モライヨーリ監督、サンドロ・ペ…
ロス・トーマスの、四十余年も前の未訳作が、いま邦訳されたことに、驚きながら喜んでいる。 1966年の『冷戦交換ゲーム』に続く、マッコークル&パディロ・シリーズの第二作。突然アメリカに帰ってきたパディロと、妻を何者かに拉致されたマッコークルが、ア…
《ミステリマガジン》の1989年1月号から、2002年9月号までの長きにわたる連載「読ホリデイ」をまとめたもので、小森収さんの解説から引用すれば「都筑道夫の最後の書評集」であり、「最晩年の仕事」である。 連載当初、ぼくは《ミステリマガジン》を購読し…
《異形コレクション》が発売されると、そのとき読みかけの本があっても、すぐ買って読みはじめる。けっこう長いこと、そんな読み方をしているのだけれど、なぜまたそんなに読みたいのか、自分に尋ねてみた。 書き下ろしのテーマ・アンソロジーの、その「テー…
この世ならぬ怪異に苦しむ人が、助けを求め本所に行くと、目の前に開けるのは、ついさきほどまではなかったはずの坂道。見た目は急だが、あっけなく上りおえると、傾きかけた古寺で、浪人のような見た目の、風采のあがらない男が待っている。見た目が冴えな…
ユニヴァーサルの廉価版で出たレッド・ガーランドの『CAN'T SEE FOR LOOKIN'』(Prestige)を聴きながら、英文のライナーノートを眺めていたら、welterweights という言葉が目に入ってきた。ガーランドがボクサーでもあったことは知っていたが、ウェルター級…
去る七月十六日、後楽園ホールで「OVERHEAT BOXERS NIGHT Vol.49」を観戦した。メインイベントは、OPBF東洋太平洋ライトフライ級暫定王座決定12回戦。家住勝彦(レイスポーツジム)と山中力(帝拳ジム)、OPBFライトフライ級では、一位家住、二位山…
この春、集英社文庫から、ジュール・ヴェルヌの作品が四点、刊行された。代表作の『海底二万里』と『十五少年漂流記』に加え、古本屋でもなかなか見かけない『気球に乗って五週間』と『チャンセラー号の筏』、という顔ぶれ。ぼくはよく知らないのだが、ジャ…
しばらくジャズを聴かないで過ごしていた。「聴きたい」という気持ちになれなかった、というだけで、これといった理由もないし、今までもときどき、こんなことはあった。でも、それが三ヶ月弱続いたというのは、これまでになかったことだ。 そんなときに、ふ…