朝松健『ぬばたま一休』


 朝松健氏の百点目の著書は、代表作である〈一休シリーズ〉の短編集となった。
 収録された六篇のうち、五篇までが《異形コレクション》に発表されたもの。だが、一冊にまとめられたものを続けて読むと、著者が一篇ごとに込めた気迫を、あらためて感じる。どの短篇を取っても、まずは文章の鮮やかさに感嘆する。この文章だから、怪異や殺戮さえ美しい。そして、一休が遭遇する奇怪な事件は、いずれも、人が人であるゆえに持つ「悲しみ」を湛えてもいる。それぞれが、ホラーであり、活劇であり、ときにミステリでもある。だが、そんな分類など無用、ただ物語に浸ればいい、と思わせてくれるのは、その「悲しみ」ゆえにだろう。
 読むうちに、一休の力が伝わってくるのか、心の曇りが晴れていくようだった。
 これからも、朝松氏が健筆を揮い、一休の物語を末永く書き続けてくれるよう、心から願っている。
『ぬばたま一休』朝松健 朝日文庫 2009
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