泥棒が1ダース

 物語に登場する「泥棒」は、現実のものとは違って、どこかしらユーモラスなイメージがあるように思う。そういえば、子供の本にも、『大どろぼうホッツェンプロッツ』なんて、楽しいのがあったっけ。
 でも、それはドートマンダーのせいだ、と、ぼくは勝手に決めこんでいる。この『泥棒が1ダース』の、出版社の紹介文が実に的確なので、そっくりそのまま引用させてもらおう。

天才的犯罪プランナーにして職業的窃盗の第一人者ジョン・ドートマンダー。彼こそ、難攻不落のターゲットを狙い、だれも考えつかないような奇想天外の作戦計画を樹立する不世出の大泥棒……のはずなのだ。だが、どういうわけかその計画が予定通りに運ぶことはまずない。うまく運んでいると思っても、必ずや不幸の連鎖が襲いかかってくるのだ。泥棒稼業はつらいよ! 世界一不幸な男、哀愁の中年泥棒ドートマンダー奮闘記

 思い出せば、彼の最初の大仕事である『ホット・ロック』以降、彼の仕事はどれもこの紹介文のとおりなのだが、本書に集められた小さな仕事は、それぞれ小さいなりに、彼の奮闘努力のさまが楽しい。ロダン作の塑像を狙う素人たちをサポートし、名馬をそっと連れ出し、パーティでウェイターに扮して警察の目から逃れる。きわめつきは、銀行の金庫室を狙ってトンネルを掘っていて、とんでもないことに出くわす書き出しから笑わせてくれる「悪党どもが多すぎる」と、サンドイッチ片手に危機また危機を切り抜ける「今度は何だ?」。お見事!
 読者を笑わせようとして、主人公を間抜けに仕立てるような小説は、これっぽっちも笑えない。ドートマンダーは間抜けではなくて盗みの天才だし、ときには美女を前にかっこいい台詞を決めることもある。だが、運が悪い。その運の悪さが、笑わせるだけでなく共感も誘う。この短篇集を読んだら、そんなドートマンダーの大仕事のほうを、また読みたくなってきた。

『泥棒が1ダース』(現代短篇の名手たち3)ドナルド・E・ウェストレイク 木村二郎訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 2009
THIEVES' DOZEN by Donald E. Westlake, 2004
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/436203.html