怪物團 異形コレクション

異形コレクション》が発売されると、そのとき読みかけの本があっても、すぐ買って読みはじめる。けっこう長いこと、そんな読み方をしているのだけれど、なぜまたそんなに読みたいのか、自分に尋ねてみた。
 書き下ろしのテーマ・アンソロジーの、その「テーマ」が、寄稿者につねに「挑戦」を求めているからではないか。その挑戦から、何かこれまでになかったものが、生まれてくる予感がするからでは、ないだろうか。
 いや、いつも過大な期待をしているのではない。ただ、テーマに則してさえいれば書き手は自由である、だから面白い短篇小説が書ける、という、シリーズそのものの空気に、惹かれているのは確かだ。
 さて。本書のテーマは「怪物」。簡単そうで実は難しいテーマだろう。収録の二十篇の中で、そのテーマを巧みに捉えて面白く仕上がっている、とぼくが思ったのは、以下の七篇になる。
 朝松健「醜い空」 作者の「一休もの」の中でも、指折りの一篇か。簡潔な文章から湧くイメージの鮮やかさに脱帽。余談ながら、飄々とした主人公と空の怪物とに、マンリー・ウェイド・ウェルマンのある短篇を連想した。
 井上雅彦「碧い花屋敷」 怪奇をたたみかけてくる物語に息つく暇もない。イマジネーションの奔放さに酔い、映画をふまえた「遊び」には、微笑を禁じえない。
 化野燐「カナダマ」 監修者いわく、作者による『ウルトラQ』。過去の日記で事件を語る一方で、現在の手記から深い闇が立ち上るさまに凝然とした。
 上田早夕里「夢みる葦笛」 静かで、綺麗で、怖ろしい。題名の意味を噛み締めながら、つい読み返してしまった。
 倉阪鬼一郎「牛男」 江戸は浅草、見世物小屋の舞台裏の、もの悲しくも優しい物語。鮮やかなイメージと、生き生きとした台詞に浸った。
 入江敦彦「麗人宴」 『京都宵』所収の「テ・鉄輪」の人々にまた会えるとは。もしかしたら本作は、本書でいちばん怖ろしいかも。
 友成純一「血塗れ看護婦」 たしかにスプラッタ、まごうことなきグロテスク、なのにこの結末、三行の優しさは何だろう。忘れがたい一篇。
 読み終えてしばらくしてから、オチを思い出してギョッとする石田一「代役」、いきなり拷問と虐殺から始まるのに陽気で妙に可笑しい平山夢明「ウは鵜飼いのウ」、写実的な筆致のシュールレアリスム絵画を見るような皆川博子「夕陽が沈む」も楽しい短篇だった。
 なお、各篇の扉絵(槻城ゆう子画)は、繰り返し眺めて飽きることがない。

『怪物團 異形コレクション井上雅彦監修 光文社文庫 2009
http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334746384