本所お化け坂 月白伊織

 この世ならぬ怪異に苦しむ人が、助けを求め本所に行くと、目の前に開けるのは、ついさきほどまではなかったはずの坂道。見た目は急だが、あっけなく上りおえると、傾きかけた古寺で、浪人のような見た目の、風采のあがらない男が待っている。見た目が冴えないからといって侮ってはいけない。彼こそ月白伊織。密教に通じ武術に長けた、言うなれば江戸の「妖怪ハンター」である。
 その伊織と、「息子」と彼が言う少年、太郎が、妖異と闘う物語を三篇収めた本書は、文庫で二百ページちょっと。だが、密度は高い。伊織たちが闘う「モノカミ」たちの奇怪さは個性豊かで、戦闘場面もそれぞれ趣向を凝らしている。一旦はもっと長く書いたものを、ぐっと凝縮したようにさえ思えるほどだ。だから、ゆっくり読むことをお薦めします。そうすれば、楽しみも増すことでしょう。

『本所お化け坂 月白伊織』朝松健 PHP文庫 2009
http://www.php.co.jp/bookstore/detail.php?isbn=978-4-569-67287-8