ドラキュラ二題

 この夏にリリースされた廉価版ジャズCDの中に、フィリー・ジョー・ジョーンズの『BLUES FOR DRACULA』(RIVERSIDE)があった。

〈収録曲〉1 Blues for Dracula / 2 Trick Street / 3 Fiesta / 4 Tune-Up / 5 Ow!
〈パーソネル〉フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラムス)、ナット・アダレイコルネット)、ジュリアン・プリースター(トロンボーン)、ジョニー・グリフィン(テナーサックス)、トミー・フラナガン(ピアノ)、ジミー・ギャリソン(ベース) 1958年9月17日、ニューヨークにて録音

 どの曲も、力強くて切れのいいハード・バップぶりが、とにかく恰好良いのだけれど、一曲目だけは奇妙で、ブルースをバックに、ドラキュラ俳優として名高いベラ・ルゴシを真似た語りが流れる、というもの。「I am Count Dracula. I'm living in Be-Bop Empire...」なんていう調子は、ユーモラスなジャケットそのまま。英文のライナーノートを読んでみると、どうもこれは、ジョーンズがやっているらしい。ぼくは、映画『魔人ドラキュラ』が大好きだから、面白がって聴いていたけれど、ホラー映画に関心のないジャズ・ファンは、この曲だけ飛ばして聴くかもしれない。

 で、このアルバムを流しながら眺めて楽しんでいるのが、石田一さんの労作『フォーレスト・J・アッカーマン ホラーSFコレクション博物館』(キャッスルカンパニー 2009)。

 SF、ホラーの「世界一の」コレクター、フォーレスト・J・アッカーマン(1916―2008)のコレクションを、親交の深かった石田さんが紹介するヴィジュアル・ブック。本書に収められているのは、その中のほんの一部なのだろうけれど、それでも、パルプマガジンの表紙や、映画の特撮に使われた怪物などのマスクをはじめ、映画や小説を中心としたSFとホラーのコレクションがずらりと並ぶさまは、壮観というほかない。
 こと、『魔人ドラキュラ』はアッカーマン氏が愛した映画の一本だったそうで、やはりお気に入りだったという『メトロポリス』やボリス・カーロフの『フランケンシュタイン』などと並んで、ページが多めに割いてある。実際に撮影に使われたドラキュラの指輪が見られるのに感激したが、さらに驚いたのは、ブラム・ストーカーの原作初版本に、寄せ書きよろしく書かれた、ルゴシやクリストファー・リーなど、ドラキュラ俳優たちのサイン。何に驚いたといって、その真ん中にあるのが、作者ストーカー本人のサインなのだ。多くのサインが加えられたことで、古書としての価値がどうなるかは知らないが、持ち主の愛情の深さは、まちがいなく感じられる。
 既存の出版社では、このような本は、おそらく出せないだろう。小出版社だからこそ実現できた企画に拍手を送りながら、キャッスル・カンパニーの次の出版物を、楽しみに待っている。
(なお、本書は、直接に出版社から御購入いただくのが、今のところ最も迅速で確実かと思います。詳細は下記URLを御覧ください。)
http://castle-company.open365.jp/