暗殺のジャムセッション

 ロス・トーマスの、四十余年も前の未訳作が、いま邦訳されたことに、驚きながら喜んでいる。
 1966年の『冷戦交換ゲーム』に続く、マッコークル&パディロ・シリーズの第二作。突然アメリカに帰ってきたパディロと、妻を何者かに拉致されたマッコークルが、アフリカ某小国の白人首相暗殺計画に加担せざるをえなくなる。二人の前に怪しい者たちが次々に現れて、思惑が入り乱れ、事態はめまぐるしく変わって予測できない展開を見せていく。下手に紹介するとネタを割ってしまいそうだから、こんなふうにしか書けないのがもどかしい。
 ロス・トーマスの小説はどれも、先の読めない展開と、一癖ある登場人物たちのユーモラスな会話が楽しい。コミカルなように見せていながら、実はハードボイルド的、というところも、かっこいい。本作は、その好見本で、前作に続けて邦訳されなかったのも、シリーズの中で一作だけ取り残されていたのも、不思議に思える面白さだ。
 邦題も見事で、怪しい連中が交錯し、計画の流れが変わっていくさまは、まさにジャムセッション。一癖あるメンバーのセッションに浸るように、心地よく物語に振り回された。久しぶりに名人芸に触れた思いだ。
 これを読んだら、前作『冷戦交換ゲーム』と、後に続く『クラシックな殺し屋たち』『黄昏にマックの店で』を読み返したくなってきた。どれも古本屋で探すか、原書で読むことになるか、と思っていたら、〈ハヤカワ・オンライン〉を見て、『冷戦交換ゲーム』が復刊されているのを知った。まずはこれを読みながら、後の二作を探すことにしようか。もしかしたら、それだけじゃすまなくなって、まだ読んでいないトーマスの本を、片っぱしから探すことになりそうだけれど。

『暗殺のジャムセッション』(ハヤカワ・ミステリ1827) ロス・トーマス 真崎義博訳 早川書房 2009
CAST A YELLOW SHADOW by Ross Thomas, 1967
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/211827.html