『荒野のホームズ』など

 シャーロック・ホームズもののパロディやパスティーシュは結構好きなのだが、西部劇の世界で、となったら、ちょっと考えてしまう。
 スティーヴ・ホッケンスミスの『荒野のホームズ』の第一印象は「なんだか怪しげだなあ」というばかりで、だから原書で見たときも、それがアメリカ探偵作家クラブ賞の候補に挙がったときも、手を出さないでいた。が、翻訳書を見ると、訳者は高名なシャーロッキアン。やや、とすると、これは怪しいものではない、ということか。
「人生で大事なことはすべてシャーロックから学んだ」という帯にも惹かれて、読んでみたが、自分の先入観が間違っていた、と、嬉しく認めることができた。
 面白いよ、これは!
 赤毛のカウボーイ、アムリングマイヤー兄弟の、探偵が兄の「オールド・レッド」ことグスタフ、語り手は弟の「ビッグ・レッド」オットー。この二人がどういった経緯でホームズを知ったか、そしてオールド・レッドがいかにしてホームズから探偵術を学び、雇われた先の牧場で起きた事件をどう解決するかを、ビッグ・レッドが威勢よく、ユーモラスに語っていく。
 TVの連続ドラマよろしく小さな山場で小刻みに盛り上げていく書き方は、読みはじめたときはのんびりしているように思えても、その「のんびり」の中に伏線を配しながら加速していく物語は、活劇も交え、いかにも本格ミステリらしい解決まで、わくわくするような楽しさに満ちている。
 海外のミステリはこんなに面白いんだよ、と言って、人に薦めてまわりたくなる一作だ。

『荒野のホームズ』スティーヴ・ホッケンスミス 日暮雅通訳 早川書房2008(ハヤカワミステリ1814)
HOLMES ON THE RANGE by Steve Hockensmith, 2006
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/211814.html

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 ホームズつながりで、もうひとつご紹介。

シャーロック・ホームズ・イレギュラーズ』日暮雅通監修 森瀬繚/クロノスケープ編 エンターブレイン2008
http://www.enterbrain.co.jp/jp/p_catalog/book/2008/978-4-7577-4571-1.html
 日本におけるホームズのパロディやパスティーシュの総カタログが三分の一を占めるが、小説や映画はもちろん、漫画やゲームまでを取り込んでいる。ホームズがいかに浸透しているかにも驚くが、編者の情報収集力にはさらに驚くほかない。パロディ通史(日暮雅通)、日本への移入史(北原尚彦)も押さえているのにも敬服。
 キム・ニューマンに、「なぜ『ドラキュラ紀元』にはホームズが登場しないのか」を尋ねたり、加納一朗に『ホック氏の異郷の冒険』の背景を語らせたりのインタビューも興味深いが、ぼくにとって一番面白かったのは、山中峯太郎翻案のポプラ社版ホームズについて語った「フッフー、プラス1点!」(平山雄一)。子供の頃に読んで、なんだかヘンだなあ、と思っていた山中ホームズだが、この一文を読んで、あらためて読み返したくなった。