【映画】その土曜日、7時58分

 別れた妻への慰謝料も、娘の養育費も払えず汲々とするハンク。彼とは対照的に功成り名を遂げた兄アンディは、弟に強盗を持ちかける。どうやら彼もまた、金に窮しているようだ。身から出た錆で大金を必要とすることになった兄弟が狙うのは、父チャールズが経営する宝石店。人に危害は加えないし、店は保険に入っているから、父親に実害はないはずだ。アンディの計画をハンクが実行に移すことになるが、彼の弱気と、二人が知り得ない偶然が、最悪の事態を導いていく。
 家族の間で起きる犯罪の物語である。明るい話になりようがない。最悪の状況が、将棋の詰め手のように整然と、そして確実に、兄弟を追い込んでいく。あくまでも視線は冷静。脚本は理知的に作り込まれている(これを書いたケリー・マスターソンとは、どういう人なのだろう)。演出はスピーディかつテンポが良く、どこを取っても隙がない。だから、暗いなどと思っている暇はなく、この「どうしようもない人々」の悲劇を、観客は悲劇として受け止めるばかりだ。
 その「どうしようもない人々」を、兄フィリップ・シーモア・ホフマン、弟イーサン・ホーク、父アルバート・フィニイといった俳優たちが、見事に演じている。
 シドニー・ルメット監督83歳の作品だとのこと。老いの片鱗さえ感じさせないこの一本に、脱帽するのみ。
 お見事!

『その土曜日、7時58分』Before the Devil Knows You're Dead(2007年、米/英)

http://www.doyoubi758.jp/