2008-01-01から1年間の記事一覧

宝島

最近つくづく思うことだが、人と同じで、良い出会いかたのできる本と、そうでない本がある。古典とか名作とかいうものには、ことにそれがはっきりするようで、実はスティーヴンスンの『宝島』は、良い出会いができなかったほうになる。 最初に手に取ったのは…

スタンリー・タレンタイン『ルック・アウト』

〈収録曲〉ルック・アウト / ジャーニー・イントゥ・メロディ / リターン・エンゲージメント / リトル・シェリ / タイニー・ケイパーズ / マイナー・チャント / (BONUS TRACK) ティン・ティン・デオ / イエスタデイズ / リトル・シェリ(シングル・ヴァージ…

歯と爪

「彼の名はリュウ。」と始まるプロローグは、ある奇術師を紹介し、彼のやってのけた、ハリー・フーディーニさえ試みなかったような「一大奇術」を、このように紹介して終わる。 「まず第一に彼は、ある殺人犯人に対して復讐をなしとげた。/第二に彼は殺人を…

ケニー・バレル『MIDNIGHT BLUE』

ポール・チェンバースの『BASS ON TOP』で、ケニー・バレルのギターを聴いて以来、彼のリーダー・アルバムを聴いてみたかった。「You Should be So Nice to Come Home」や「Dear Old Stockholm」でのギターが印象深かったから、というだけなのだが。 バレル…

ジュラシック・パーク

十数年前、スティーヴン・スピルバーグ監督による映画化も相俟って、恐竜ブームを巻き起こしたこの小説がふと懐かしくなり、読み返してみた。1991年、原書刊行年のうちに邦訳。文庫は二年後、1993年3月に刊行されたが、読み返そうと思いたってつい先週買っ…

ボルヘスと不死のオランウータン

ブエノスアイレスで開かれた「イズラフェル協会」の総会。世界各国からそこに集ったE・A・ポオの研究者のうち、ドイツ人の男がホテルの自室で刺殺された。部屋は内側から閉ざされ、死者は不自然な姿勢を取っていた。 ブラジル人作家フォーゲルシュタインは…

シャーロック・ホームズの優雅な生活

ビリー・ワイルダー監督の映画『シャーロック・ホームズの冒険』(1970 米)の小説化。1974年に邦訳され、今も書店に並んでいる。ホームズ・パロディにしても、ノヴェライゼーションにしても、ロングセラーと言っていいだろう。 ホームズ聖典の長篇同様にコ…

【映画】インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国

映画は好きなほうだとは思うけれど、シリーズものとなると、あまり熱心にフォロウしてはいない。数少ない例外のひとつが《インディ・ジョーンズ》のシリーズだが、この20年ぶりの新作には、「インディも結構な歳だよなあ」と思うと、どうも見ようという気…

月と六ペンス

《諸君は実在する秘密諜報部員やスパイを扱った小説や映画は好きだろうか。諸君はゴーギャンの絵やゴーギャンの人生に関心をもっているだろうか。諸君は男が女に愛想をつかす理由や、女が変わった男に惹かれる理由、さもなくば男が女にすがる理由に興味があ…

『アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション』

ここ何日か、『アート・ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション[+1]』(ユニバーサル、2007)ばかり、繰り返し聴いている。〈収録曲〉ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ/レッド・ペッパー・ブルース/イマジネーション/ワルツ・…

怪談

先日、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の作品を、佐野史郎さんが朗読するステージを見た。そういえば、ながらく読み返していないな、と思って、岩波文庫の『怪談』(平井呈一訳)を買ってみた。 初版が1940年。今、書店に並んでいるのは、1965年(第27刷)…

デューク・エリントン『MONEY JUNGLE』

ジャズを聴きはじめる前から、なぜかデューク・エリントンだけはベスト盤ながらCDを持っていた。ビッグバンドのスイングが好きで、こと、かの名曲「A列車で行こう」は、繰り返し聴いたものだった。 急に、そのエリントンが聴きたくなったのは、気が沈んで…

夢の漂泊者〜小泉八雲、旅路の果てに

去る6月7日(土)、原宿EX'REALM で開かれた、「夢の漂泊者〜小泉八雲、旅路の果てに」を見にいきました。 佐野史郎さんによる小泉八雲作品の朗読と、山本恭司さんのギター演奏のコラボレーション。「耳なし芳一」を中心に、短い作品で構成した朗読と、時…

レッド・ガーランド『マンテカ』

ジャズを聴きはじめた、とは言っても、聴いているのは今のところ、どれも半世紀ほど前のもの。いま現在の、新しい人のジャズはまだ聴いていないな、と思い、ヨーロッパのあるサックス・プレイヤーの新譜を聴いてみた。ジャンゴ・ラインハルトやデューク・エ…

『ラヴクラフト傑作集』など

高校生の頃に、S・D・シフ編のアンソロジー『マッド・サイエンティスト』(創元SF文庫)で、H・P・ラヴクラフトという作家の「冷気」という短篇に出会った。それ以来、彼に惹かれて、もう四半世紀たったことになる。 当時は、ラヴクラフトの邦訳は少な…

リー・モーガン『THE RUMPROLLER』

〈収録曲〉Rumproller / Desert Moonlight / Eclipso / Edda / The Lady / Venus Di Mildrew 〈パーソネル〉リー・モーガン (tp), ジョー・ヘンダーソン (ts), ロニー・マシューズ (p), ヴィクター・スプロールズ (b), ビリー・ヒギンズ (ds) 1965年4月9日…

アラバマ物語

『アラバマ物語』 ハーパー・リー 菊地重三郎訳 暮しの手帖社 1964年初版 2006年第35版 TO KILL A MOCKINGBIRD by Harper Lee, 1960 http://shop.greenshop.co.jp/i-shop/product.pasp?cm_id=52367&cm_large_cd=16&to=pr 本書の舞台は1930年代、アラバマの小…

【映画】ミスト

スティーヴン・キングの中篇ホラー『霧』を映画化した、『ミスト』(フランク・ダラボン監督 2007年 アメリカ映画)を見てきました。 嵐を追うように突如発生し、広範囲を覆った奇怪な濃霧。その中には怪物たちが徘徊し、人間は狩られるほかない。マーケット…

皇帝のかぎ煙草入れ

ミステリの古典を読み返そう、と思っても、なかなか食指の動かないのが、ジョン・ディクスン・カー。昔は熱中したもので、邦訳のあるものは八、九割読んでいるのだけれど、今になって再読しようとすると、なぜか躊躇してしまう。 トリックが際立っているだけ…

バド・パウエル『ザ・シーン・チェンジズ』

〈収録曲〉クレオパトラの夢/デュイッド・ディード/ダウン・ウィズ・イット/ダンスランド/ボーダリック/クロッシン・ザ・チャンネル/カミン・アップ/ゲッティン・ゼア/ザ・シーン・チェンジズ/カミン・アップ(別テイク。ボーナス・トラック)〈パ…

消されかけた男

ブライアン・フリーマントルの『消されかけた男』は、新潮文庫の翻訳ミステリでは、ロングセラーと言っていいだろう。初版が1979年、現在書店で販売されているのが、2007年に出た34刷で、この版から改版して、文字が大きくなっている。 英国情報部員チャーリ…

ポール・チェンバース『ベース・オン・トップ』

ジャズを聴きはじめてから、いちばん多く目にしてきた名前が、ポール・チェンバース。ジョン・コルトレーン、レッド・ガーランド、マイルス・デイヴィス、ソニー・クラークと、一枚ずつCDを聴いて、パーソネルの記載を見ると、ベースを弾いているのが、ど…

ビッグ・ボウの殺人

先日、ガストン・ルルーの『黄色い部屋の謎』(1907)を読んで、もうひとつ〈密室もの〉ミステリの古典があったなあ、と思い出したのが、イズレイル・ザングウィルの『ビッグ・ボウの殺人』(1891)。これはまだ読んでいなかったので、大きな書店で探してみ…

アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ『モーニン』

4月は結局、この1枚しか買わなかった。いろいろ忙しかったから、というのもあるが、むしろこの二ヶ月で買ったアルバムを繰り返し聴いていたから、というほうが、より大きな理由だろう。〈収録曲〉ウォーム・アップ・アンド・ダイアローグ(リー・モーガン…

【映画】ブラックサイト

ひさしぶりに映画を見てきました。 サスペンスものの『ブラックサイト』(米2007 原題 UNTRACEABLE グレゴリー・ホブリット監督)です。http://www.sonypictures.jp/movies/untraceable/ 犠牲者を拉致し、致死的な仕掛けの中に監禁。そのさまをネット上に公…

黄色い部屋の謎

ミステリの古典というのは、トリックがどうで犯人が誰だった、と、読みはじめた十代の頃の記憶がけっこう残っているからか、あまり読み返さないでいた。でも、小説というもの、ネタだけで書かれているものではない。読み返す楽しみを語った、石上三登志さん…

ジャズ初心者の名盤探し(3月)

ビル・エヴァンスからはじまって一か月、ひとまわりしたような感じで、エヴァンスに戻ってきた。ビル・エヴァンス / ワルツ・フォー・デビイ[+4]〈収録曲〉マイ・フーリッシュ・ハート/ワルツ・フォー・デビイ(テイク2)/デトゥアー・アヘッド(テイク2…

高安犬物語

ランダムハウス講談社文庫から、《戸川幸夫動物文学セレクション》の刊行が始まった。 今月発売の第一巻が『高安犬物語』で、続刊として『虎は語らず』、『人喰鉄道』(長篇)、『オホーツク老人』、『イリオモテヤマネコ』(ノンフィクション)が予定されて…

泡姫シルビアの華麗な推理

一昨年だったか、泡姫さんとミステリの話をしたことがある。 ソープランドに遊びに行ったときに、というわけではない。 一人カウンターで飲んでいて、たまたま隣の女性と映画のことをしゃべっているうちに、アガサ・クリスティ原作の映画で好きなのはどれか…

ぼくのジャズ入門(2)

初心者の気軽さで、薦められるものは聴いてやろう、と、山下洋輔トリオ『キアズマ』を聴いては「なんだかよくわからんが面白い!」と思ったり、『ヘレン・メリル ウィズ クリフォード・ブラウン』を聴いては「ニューヨークのため息」のやさしさと、夭折のト…