ぼくのジャズ入門(2)

 初心者の気軽さで、薦められるものは聴いてやろう、と、山下洋輔トリオ『キアズマ』を聴いては「なんだかよくわからんが面白い!」と思ったり、『ヘレン・メリル ウィズ クリフォード・ブラウン』を聴いては「ニューヨークのため息」のやさしさと、夭折のトランペット・プレイヤーの演奏に酔ったり。

 レッド・ガーランド・トリオ『グルーヴィー』を聴いてみたのは、コルトレーンの『ソウルトレーン』でピアノを弾いていたのがガーランドだから。

〈収録曲〉Cジャム・ブルース/ゴーン・アゲイン/ウィル・ユー・スティル・ビー・マイン/柳よ泣いておくれ/ホワット・キャン・アイ・セイ・ディア?/ヘイ・ナウ
〈パーソネル〉レッド・ガーランド(p) ポール・チェンバース(b) アート・テイラー(ds) *1956.12.14、1957.5.24、8.9 ニュージャージーにて録音

『ソウルトレーン』は、このトリオにコルトレーンが加わったメンバーだったんだな。

 ガーランドの演奏は小気味よく、「ジャズ・ピアノ」という言葉を聞いたとき、湧いてくるイメージそのままのよう。わかりやすくて、それでいて飽きない。強い個性はないけれど味のしっかりした、切れのいい日本酒みたいだ。
 でも、LP時代のレビューでは、このアルバムは褒められていない。コルトレーンやマイルスの脇役というだけで記憶される、もう飽きられてしまったピアニストの、往年の名盤というような評価なので、驚いた。
 輸入盤がジャズ喫茶で大人気となり、それだけに国内盤が出たときは、聴くだけ聴かれたあとだった、という事情も後で知ったし、こういう批評も資料としては貴重なのかもしれない。でも、このアルバムを聴いて「いいなあ!」と思ったぼくは、ミステリ仲間に「『Xの悲劇』って面白いよね」と言ったら、「まだまだ甘いな。エラリー・クイーンの真価は後年の作品にあるのだ」なんて返されたような気持ちで、愉快ではない。
 好きなピアニストが一人増えたことは大きいが、加えて、ジャズ評論の負の面に気づいたことも、また大きな収穫だった。

 ガーランドつながりで、次に聴いたのが、マイルス・デイヴィスクインテット『クッキン』。

〈収録曲〉マイ・ファニー・ヴァレンタイン/ブルース・バイ・ファイヴ/エアジン/チューン・アップ〜ホエン・ライツ・アー・ロウ
〈パーソネル〉マイルス・デイヴィス(tp) ジョン・コルトレーン(ts) レッド・ガーランド(p) ポール・チェンバース(b) フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)*1956.10.26、ニュージャージーにて録音

 マイルス・デイヴィスは有名で、アルバムも多いだけに、ちょっと手を出しかねていた。もっとも『死刑台のエレベーター』は、スクリーンを見て演奏したというマイルスの音楽ともども、好きな映画なので、敬遠していたわけではない。「ガーランドつながり」で、意外に早く聴けたな、という思い。
 これはいいぞ、ことに二曲めはかっこいい、と思って何度も聴いたけれど、マイルス・デイヴィスの良さがまだぼくには捉えきれない。どこかしら、ロックのかっこよさに近いものがあるような気もする。それをはっきりつかむために、もう何枚か聴いてみたいところ。

『クッキン』と一緒に買ったのが、ソニー・クラークの『クール・ストラッティン』で、これは高田馬場のジャズ喫茶「マイルストン」に通っていた時期に、ジャケットが印象深かったので覚えていた一枚。

〈収録曲〉クール・ストラッティン/ブルー・マイナー/シッピン・アット・ベルズ/ディープ・ナイト (ボーナス・トラック)ロイヤル・フラッシュ/ラヴァー
〈パーソネル〉ソニー・クラーク(p) アート・ファーマー(tp) ジャッキー・マクリーン(as) ポール・チェンバース(b) フィリー・ジョー・ジョーンズ(dr) *1958.1.5録音

 あれ、『ソウルトレーン』からこれまでの四枚、どれもベースはポール・チェンバースだ。なんだか、べーシストを追っかけてるみたいだな。ドラマーは『クッキン』と同じ、フィリー・ジョー・ジョーンズ
 ことに二曲めで際立っているのだけれど、自然な曲の流れの中で、わかりやすくてかっこいいメロディが要所を押さえている。まるまる一枚ぶん、ただ浸っていられる、と初心者でも思えるのだから、まちがいなく名盤なのだろう。

 一ヶ月でCD八枚とは、これまでの音楽を聴くペースでは記録的。それだけジャズに惹かれた、ということか。
 それにしても、ビル・エヴァンスからはじまって、レッド・ガーランドソニー・クラークと、ピアノの比率が高いのは、好みの問題かな。

 こんな風にして、今月も聴き続けている。
 ジャズ初心者の二ヶ月めについては、またあらためて。