ぼくのジャズ入門(1)

 ビル・エヴァンス・トリオの『ポートレイト・イン・ジャズ』を聴いたのが、この二月はじめのことだから、ジャズにはまって、実はまだ日が浅い。
 でも、そんな初心者が、それからの一ヶ月で何を聴いたかまとめておくと、「実践的ジャズ入門」のようなものになるんじゃないか、と思ったので、その勢いで、このブログに、少しずつ書いてみよう。

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 ビル・エヴァンスを聴いたよ、と言うと、今までジャズの話をしたことのない友人たちが、こぞって名盤を薦めてくれはじめた。
 それは、ミステリ仲間ができたばかりのときに、ぼくがまだ読んでいない名作のあれこれを薦めてもらったのを、思い出すほどだった。
 ぼくは手掛かりになるものを何も持っていないから、薦められるものを一枚一枚、聴いてみることにした。

 その中から最初に選んだのが、ソニー・ロリンズの『サキソフォン・コロッサス』。

〈収録曲〉セント・トーマス/ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラヴ・イズ/ストロード・ロード/モリタート/ブルー・セヴン
〈パーソネル〉ソニー・ロリンズ(ts) トミー・フラナガン(p) ダグ・ワトキンス(b) マックス・ローチ(ds)*1956.6.22 ニュージャージーにて録音

 いつ、どこで、とは思い出せないが、何度となく聴いたことのある一曲めの楽しいことといったら! 二曲めはぐいと引き込むブルースだし、四曲めはスタンダードの「マック・ザ・ナイフ」じゃないか。
 これは、ユニバーサル・ミュージックが出した《JAZZ THE BEST Legendary 150》の一枚。このシリーズの売りのひとつとして、最初にリリースされたときの『Swing Journal』誌のレビューが収録されている。
 このアルバムのレビューを書いたのは植草甚一さんで、面白いのだけれど、レビューになってるのかな。
「これを聴かせてピンとこなかった友達を張り倒したくなった経験がある」とか「ジッとすわっていられなくなってしまった」とか、「それまでレコードにすっかり金をはたいたのが、やっと取り返せたという気持ちになった」とかいう調子。感激ぶりがよくわかるし、ぼくも聴いて大感激。名盤に出会う幸運がこんなふうに続いて、さらにジャズにはまっていく。

 というのも、サックスというつながりで、次に選んだのが、ジョン・コルトレーンの『ソウルトレーン』だったから。これまた《JAZZ THE BEST Legendary 150》シリーズの名盤。

〈収録曲〉グッド・ベイト/アイ・ウォント・トゥ・トーク・アバウト・ユー/ユー・セイ・ユー・ケア/テーマ・フォー・アーニー/ロシアの子守唄
〈パーソネル〉ジョン・コルトレーン(ts) レッド・ガーランド(p) ポール・チェンバース(b) アート・テイラー(ds) *1958.2.7 ニュージャージーにて録音

 どの曲も、耳に心地よいメロディがまずあって、それをプレイヤーの一人一人が膨らませていく。聴いているうちに、自然にくつろいでくる。これにも植草さんの、五十年近く前のレビューがついているのだけれど、そこで「温か味」と書かれていたのは、この感覚か。
 陽気でテンポの良い曲と落ち着いた曲とが交互に配されていて、ジャズの勘所がつかめない初心者でも楽しく聴ける。最後の「ロシアの子守唄」なんて、原曲は静かなんだろうけれど、コルトレーンの子守唄だと、ロシアの子供たちは寝つくどころか浮かれてしまい、ウォッカで一杯機嫌のお父さんお母さんと踊りだしそうだ。
 もうひとつ、いいなあ、と思ったのは、LPレコード時代の、四十分くらいの録音時間。何度も繰り返せるし、聴き疲れしない。

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 この時点では、ぼくのジャズCD選びの基準は、まだ「知っている曲が入っている」「ジャケットがかっこいい」「友人知人に薦めてもらった」の三点くらいだった。
 が、『ソウルトレーン』を聴いているうちに、このアルバムでピアノを弾いている、レッド・ガーランドがリーダーを務めているアルバムを、聴いてみたくなってきたのだ。
 パーソネルとかリーダーとかのジャズ用語がわかりかけてきたせいか、演奏者への興味が深くなってきて、「誰が、何を演奏しているか」というのが、加わってきた。
 選ぶさいの項目が、一つ増えた、というわけだ。

(続く)