レッド・ガーランド『マンテカ』

 ジャズを聴きはじめた、とは言っても、聴いているのは今のところ、どれも半世紀ほど前のもの。いま現在の、新しい人のジャズはまだ聴いていないな、と思い、ヨーロッパのあるサックス・プレイヤーの新譜を聴いてみた。ジャンゴ・ラインハルトデューク・エリントンの曲を演奏していて、心地よいのだけれど、全体にとても上品でおとなしく、つい聴き流してしまう。思えばここのところ、ブルーノートの名盤といわれるものを続けて聴いていたから、耳がそちら寄りになっていて、このアルバムの勘所がまだわからないのだろう。そのうちまた聴き直してみよう。
 そのアルバムをタワーレコードで買ったら、ポイントが1000点たまった。これを使って1000円引きになるならもう一枚、と思って棚を見ていると、ユニヴァーサル〈JAZZ THE BEST〉の新しいシリーズが並んでいた。1100円で150タイトルもリリースするという。カタログを見ると、どうも通好みなタイトルのような印象で、初心者には難しいかも、という気がしなくもない。でも、1000円引きなら100円になるわけで、100円なんてとてもCDの値段じゃない、と気づいたら急に可笑しくなって、一枚買ってみよう、と思った。
 そんな中で、「マンテカ」を選んだのは、もちろんレッド・ガーランドのアルバムだからなのだけれど、彼のピアノ・トリオにコンガが入ったらどんな演奏をするのか、聴いてみたくなったから。
〈収録曲〉マンテカ / スワンダフル / レディ・ビー・グッド / イグザクトリー・ライク・ユー / モーツ・リポート / ポートレイト・オブ・ジェニー(ボーナス・トラック)
〈パーソネル〉レッド・ガーランド(p) ポール・チェンバース(b) アート・テイラー(ds) レイ・バレット(cga) 1958年4月11日、ニュージャージーにて録音
 最初の「マンテカ」は、タイトルどおりアフリカの印象がある曲。「マンテェェー、カ!」と叫んでいるのは誰の声か。コンガのリズムにトリオが絡んでいくさまに、ニューヨークの街角を駆け抜ける正装したマサイの青年を、なぜか空想してしまった。
 これはいいぞ、と思ったら、続く曲はどれもスタンダード。スタンダードも、ガーランド‐チェンバース‐テイラーのトリオも、もちろん好きなのだけれど、あれれ、コンガの見せ場(いや、聴かせ場か?)はあんまりないのかな、と、ちょっと拍子抜けしたように思いつつ聴いていたら、終わってしまった。名手たちが、新しい友達を招いて遊んでいるだけかな、という気さえしてきた。
 これは失敗だったかな、と思いもしたが、何度か繰り返して聴くうちに、ある夕方に「あ、これ面白い」と思った。サントリーの角ハイボール缶を片手にリラックスしていた、というのもあるかもしれない。
「スワンダフル」のようなスタンダードをピアノトリオが演奏しているなかに、コンガが入ってきたら、新しい味が出てきたことに気づいた。軽やかで、楽しげ。飄逸というのはこういうものだろうか。ここのところ繰り返し聴いていたバド・パウエルリー・モーガンも、かっこいいけれど、飄逸とはちょっと違うなあ。
 そう気づいたら、やはりこればかり繰り返し聴くようになってしまった。ジャズって、奥が深いなあ。
 ところで。ボーナス・トラック(バレットは参加していない)の「ポートレイト・オブ・ジェニー」は、ロバート・ネイサンのファンタジイ『ジェニーの肖像』と、どんなつながりがあるのだろう。映画化されたときのテーマ曲を演奏しているのか、小説にインスパイアされた曲なのか。このシリーズ、解説がほんの1ページしかなく、こういう余談には触れる余裕がないようなので、まだわからないのだが、普段はライナーノートなど読み流しているくせに、こういうことがあると気になってしかたがない。