ボルヘスと不死のオランウータン

 ブエノスアイレスで開かれた「イズラフェル協会」の総会。世界各国からそこに集ったE・A・ポオの研究者のうち、ドイツ人の男がホテルの自室で刺殺された。部屋は内側から閉ざされ、死者は不自然な姿勢を取っていた。
 ブラジル人作家フォーゲルシュタインは、かのホルヘ・ルイス・ボルヘスとともに、この殺人事件の謎を解こうとする。
 被害者も容疑者たちもポオ研究家、探偵役がボルヘス。こう来たら、もはや一筋縄のミステリになろうはずもない。密室殺人とダイイング・メッセージをめぐる衒学と、積み上げられては崩される推理の空転を読み進めば、解こうにも解けない謎の迷路をぐるぐる回る酩酊感のような感覚を楽しめる。語り手と一緒に、ボルヘスの脳の中をさまよってみましょう。
 真面目なミステリの読者は怒るかもしれない。が、ミステリの「遊び」を愛する人にとっては、小さくても味わい深いお菓子のような、愛すべき一冊になるだろう。

ボルヘスと不死のオランウータン』ルイス・フェルナンド・ヴェリッシモ 栗原百代訳 扶桑社ミステリー 2008
BORGES E OS ORANGOTANGS ETERNOS by Luis Fernand Verissimo, 2000
http://www.fusosha.co.jp/book/2008/05696.php