ポール・チェンバース『ベース・オン・トップ』

 ジャズを聴きはじめてから、いちばん多く目にしてきた名前が、ポール・チェンバースジョン・コルトレーンレッド・ガーランドマイルス・デイヴィスソニー・クラークと、一枚ずつCDを聴いて、パーソネルの記載を見ると、ベースを弾いているのが、どれも彼だった。
 そのチェンバースのリーダー・アルバム『ベース・オン・トップ+1』(EMI MUSIC JAPAN)をCDショップで見つけた。売場担当者の手書きポップがついていて、「二曲目から聴いてください」と書かれている。変な売り方だな、と思いながらも、もともとベースは好きな楽器だということもあり、興味を惹かれて聴いてみた。

〈収録曲〉イエスタデイズ/ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ/チェイシン・ザ・バード/ディア・オールド・ストックホルム/ザ・テーマ/コンフェッシン/チェンバー・メイツ(ボーナス・トラック)
〈パーソネル〉ポール・チェンバース(b) ケニー・バレル(g) ハンク・ジョーンズ(p) アート・テイラー(ds) *1957年7月14日録音

 一曲目の「イエスタデイズ」は、ベースをコントラバスみたいに弓で弾いた曲で、この奏法、ボウイングと呼ぶことを知った。出だしの、ギター相手の低音がなんとも優しく、ピアノ、ドラムスが絡んでくると、さらに心地よくなってくる。
 二曲目「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」は、ヘレン・メリルのヴォーカルで知られるコール・ポーターの名曲。これをベースが歌っているわけで、売場担当者お薦めなのも納得の好演奏。かっこいいなあ。
 脇役になりがちなベースが主役、というところや、低音の心地よさはもちろんだけれど、ベースってこんな音も出せるんだ、こんなふうにも弾けるんだ、と、変幻自在ぶりがなんとも楽しいアルバムで、この最初の二曲から引き込まれ、浸ってしまえるのだけれど、なんとも深く心に響いたのが、四曲目の「ディア・オールド・ストックホルム」。ケニー・バレルのギターが奏でるマイナーコードのメロディラインがなんとも気持ちよく、これはタイトルどおり北欧のイメージなのかな、と調べてみたら、スウェーデンの民謡を元にしたスタン・ゲッツの曲で、マイルス・デイヴィスはじめさまざまなジャズ・ミュージシャンが演じているのだとか。
 それを知ったら、ゲッツはじめ他の人たちの演奏を聴きたくなってもきたが、ストックホルムといえばシューヴァル&ヴァールーの警察小説〈マルティン・ベック〉もの。ことにシリーズ初期の『ロゼアンナ』や『バルコニーの男』からイメージした、曇天のもと静かに人々が行き来するストックホルムの街角を思い浮かべながら、繰り返しこの曲を聴いていた。