【映画】ミスト

 スティーヴン・キングの中篇ホラー『霧』を映画化した、『ミスト』(フランク・ダラボン監督 2007年 アメリカ映画)を見てきました。
 嵐を追うように突如発生し、広範囲を覆った奇怪な濃霧。その中には怪物たちが徘徊し、人間は狩られるほかない。マーケットに閉じ込められた人々は、活路を求め戦いはじめる。
 キングにとっては中篇なのでしょうが、長さも内容も充分に長篇といえるこの作品は、1980年にカービー・マッコーリーのアンソロジー『闇の展覧会』(ハヤカワ文庫NV)のために書き下ろされたもので、アメリカのホラー小説の中では、すでにスタンダードな一篇であるといえるでしょう。映画化されることの多いキングの小説ですが、原作の発表から映画公開まで四半世紀を要したのは、特撮技術がようやくこの小説の世界に追いついた、ということなのかもしれません。
 この映画、ストーリーはほぼ原作どおりで、『霧』を読み返しているような気持ちに、何度もなりました。
 シャッターの隙間から這い込んでくる触手をはじめ、霧の中から襲ってくる怪物も、造形、動作ともに見事で、エンドクレジットにはCGオペレーターのほかに puppeteer(操演者、とでも訳しましょうか)という言葉も見られたので、人形の操作とCGを併せて撮影しているのでしょう。
 キャストも、いかにもキングが描きそうな人たちを揃えており、主人公を演じるトーマス・ジェーンはもちろんですが、マーケットの副店長役オリー・ウィークスや、ファナティックな聖書マニアを演じたマーシャ・ゲイ・ハーディンは、ことに適役、好演でした。
 おそらくは、数あるスティーヴン・キング原作の映画のうちでも、指折りの出来映えと言っていいでしょう。
 が、原作とは大きく異なる結末は、観た人たちのあいだで議論になるのではないか、と思います。
 まだ観ていない方の興味をそがないよう、どんな結末かは書きませんが、原作の結末、それも最後の一行に心うたれた僕としては、見終えたあと、この映画が胸のうちにおさまるまで、かなりの時間を要しました。伏線が細やかで説得力もあり、ダラボンがこの結末を選んだのも、じっくり考えてみれば納得はできるのですが。
 個人的には、好きな映画のうちに数えることは、どうもできそうにありません。が、もしかしたらこれは、キング原作の映画のうちでも、傑作に数えられる一本かもしれない、という気もします。なお、原作のある映画を観るときには、僕自身いつも迷うのですが、この映画に関しては、先に原作を読んでおいたほうが良いように思いました。

『ミスト』公式サイト http://www.mistmovie.jp/