アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ『モーニン』

 4月は結局、この1枚しか買わなかった。いろいろ忙しかったから、というのもあるが、むしろこの二ヶ月で買ったアルバムを繰り返し聴いていたから、というほうが、より大きな理由だろう。

〈収録曲〉ウォーム・アップ・アンド・ダイアローグ(リー・モーガン&ルディ・ヴァン・ゲルダー) / モーニン / アー・ユー・リアル / アロング・ケイム・ベティ / ドラム・サンダー組曲 / ブルース・マーチ / カム・レイン・オア・カム・シャイン / モーニン(別テイク)
〈パーソネル〉アート・ブレイキー(dms) リー・モーガン(tp) ベニー・ゴルソン(ts) ボビー・ティモンズ(p) ジミー・メリット(b) 1958年10月30日録音

 ドラムスがリーダーのアルバムを聴いたのは初めて、という初心者の所感はさておき、どの曲を聴いても心地よく乗れる、世評に違わぬ名盤だった。
 中山康樹さんの『超ジャズ入門』でも、初心者に薦める名盤の筆頭に(ジャケットの顔がコワイ、という茶々込みで)挙げられていたっけ。読んですぐ「じゃあ、ちょっと聴いてみようか」と新宿のヴァージン・レコードに行ったが、ブルーノートだけでも膨大な量があるのに酔ったようになって、買わなかったことを思い出した。当時のエディションでライナーノートを書いていたのは、脚本家の小中千昭さん(ぼくは、当時はホラー小説家としてしか知らなかった)。あのとき買わなかったことを、いまになっても悔やんでいる。

 表題曲は、コマーシャルやTV番組のテーマ曲で、イントロだけ有名。でも、10分近い曲の流れの中で、各パートの見せる変幻自在ぶりは鮮やかで(ことにティモンズのピアノは、流れるようだ!)、何度聴いても飽きることがない。このCDだと、ボーナストラックに別テイクが入っているから、なおさら聴き込んでしまう。
 他のどの曲もいいのだけれど、こと印象が強いのが「ドラム・サンダー組曲」。アート・ブレイキーのドラムスティックが大暴れ、なのだけれど、ところどころ和太鼓を連想させるリズムがあって、体感的に心地よい。この曲を聴いて、手塚治虫さんの短篇「てんてけマーチ」(1977)を思い出した。村一番の太鼓の名手だった青年が出征、復員したときは腕一本を失い、もう太鼓は叩けなくなってしまっていた。彼は息子に後継を期待するが……という物語。戦争の話であり、音楽の話であり、父と子の物語でもあって、少しファンタジイでもある。ふと、「手塚さんはアート・ブレイキーを聴いたのかな」などと思ってしまった。