バド・パウエル『ザ・シーン・チェンジズ』

〈収録曲〉クレオパトラの夢/デュイッド・ディード/ダウン・ウィズ・イット/ダンスランド/ボーダリック/クロッシン・ザ・チャンネル/カミン・アップ/ゲッティン・ゼア/ザ・シーン・チェンジズ/カミン・アップ(別テイク。ボーナス・トラック)

〈パーソネル〉バド・パウエル(p) ポール・チェンバース(b) アート・テイラー(dms) *1958年12月29日録音

 人に薦められて気になっていたバド・パウエルを、ようやく初めて聴いた。薦めてもらったのは『ジャズ・ジャイアント』なのだけれど、『ザ・シーン・チェンジズ+1』(EMIミュージック・ジャパン 2003)を選んだのは、「クレオパトラの夢」だけは聴いたことがあった、というのと、ポール・チェンバーズがベースを弾いているから。本もそうなのだけれど、つながりで追いかけたくなるのは、どうもぼくの癖のようなものらしい。
 全曲、バド・パウエル自身の作曲で、まずメロディが美しい。そのうえでトリオがそれぞれのアドリブを聴かせてくれて、どこを聴いても心地よい。こと印象深いのは、マイナー調で夜っぽい雰囲気の「デュイッド・ディード」「ダンスランド」や、可愛らしいメロディの「ボーダリック」。
 ビル・エヴァンスのピアノが、疲れたときや心が沈んだときに深く響いてくるのに比べて、なんだかパウエルのほうは、うきうきさせるような空気がある。それに、なんとも自由闊達に聴こえる。いや、自由闊達でないジャズ・ピアノなんてないのだけれど、それでも彼にしかない自由さのようなものがある気がする。よくよく耳をすませてみると、かすかにスキャットのような人の声がピアノに合わせて聴こえる曲もあって、それに気づいたときは落ち着かなかったが、聴いているうちに、そこも楽しくなってきた。パウエルの声なんだろうか。グレン・グールドが自分の弾くバッハに合わせてハミングしていたのを思い出したけれど、ちょっと違うかな。

 かくして、初心者はアルバム一枚ごとに、ジャズに深入りしていくのです。