【映画】落下の王国

 なんとも不思議な映画だ。
 舞台はロスアンゼルスのとある病院、時代は映画の草創期。
 入院患者の一人、五歳の女の子が登場する。名前はアレキサンドラ。彼女はオレンジの木から落ちて、腕を骨折した。そのアレキサンドラが、風のいたずらで出会ったのが、やはり入院しているロイという青年。彼は、遠い昔の長い物語を、彼女に語りはじめる。残忍なスペイン総督オウィディアスに闘いを挑んだ、六人の勇士の叙事詩だ。
 ロイが何者で、なぜそんな物語を作ってアレキサンドラに語るかは、映画が進むにつれてわかってくるのだが、このお話が、いわゆる「七人もの」をファンタジイに仕立てたようなものになっていて、面白い。
 総督に苦しみを味わわされたうえ、珊瑚礁に流刑された五人の男。黒人奴隷、剣の使い手のインド人、猿を友とするイギリス人の博物学者、イタリア人の爆薬使い、そして、フランス人の山賊。彼らは総督に復讐するため、博物学者の奇策で珊瑚礁を脱出。本土に上陸するや、燃え上がる樹からドレッドヘアーの「霊人」が現れ、総督への復讐という目的が一致したので合流。六人は総督とその軍に戦いを挑む。この六人のキャラクターが、石岡瑛子デザインのコスチュームとあいまって、際立っていて面白い。
 ロイが入院するに至った事情や、アレキサンドラとの交流など、現実世界のドラマが進むにつれて、この物語も不思議な変化を見せていく。世界各地の、多くは世界遺産とされた場所で撮影された「物語」のシーンは、無駄にさえ思えるほどに華やかだが、それでこそ「物語」である。そして、それだけ華やかなのに、「実はこういうお話でした」と言ってまえば他愛もない絵空事になってしまう。だが、それは現実の他愛なさの鏡像でもある。そして、「絵空事」が次第に「現実」を変えていくのを、この映画は見せてくれる。ちょうど、ティム・バートンの『ビッグ・フィッシュ』で、父親が語る大ぼらが、息子を変えていくように。
 そして、物語が終わっても、魔法は続くことが、エンディングから見えてくる。『オズの魔法使』で、ドロシーが赤い靴の力でおうちに帰った後も、オズの仲間たちがそばにいるように。
 スターが登場する映画でもないし、テーマパークよろしき派手なアクションもない。大ヒットという言葉とは、たぶんこの映画は無縁だろう。でも、楽しくて、忘れられない。「映画」が好きな人、映画を含む「物語」が好きな人には、ぜひ見ていただきたい。

落下の王国』THE FALL(2006年 インド/イギリス/アメリカ)
監督:ターセム 出演:リー・ペイス、カティンカ・ウンタルー 他
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