ホレス・パーラン『アス・スリー』

《収録曲》アス・スリー / アイ・ウォント・トゥ・ビー・ラヴド / カム・レイン・オア・カム・シャイン / ウェイディン / ザ・レディ・イズ・ア・トランプ / ウォーキン / リターン・エンゲージメント
《パーソネル》ホレス・パーラン(p) ジョージ・タッカー(b) アル・ヘアウッド(ds) 1960年4月20日録音

 しばらく、ジャズについて書く気になれないでいた。理由はとくにここに書くこともない、個人的な事情だが、「音楽は体で感じるもので、頭から出る言葉ではとらえきれない」と思ったからでもある。で、「これまで書いてきた感想の類は、自分にとって意味があったのかな」と思いながら、それでも、この二月から聴いてきたアルバムのあれこれを、繰り返し聴き続けていた。
(体感にしたがってジャズを語るとなったら、と考えて思い出したのは、植草甚一さんがソニー・ロリンズの『サキソフォン・コロッサス』について書いたレビューの、「これを聴いてピンとこない友人を張り倒してやりたくなった」という一言。「張り倒す」にはびっくりした。文章でジャズを、となったら、山下洋輔さんの書くものか。)
 そんなときに、ホレス・パーランの『アス・スリー』(EMI)を買ってみたのは、スタンリー・タレンタインの『ルック・アウト』で、彼と組んでいたのが、このトリオだったから。ビル・エヴァンスからジャズを聴きはじめたのだから、ピアノ・トリオなら、余計なことを考えずに聴けるだろう。
 一曲目、タイトル・ナンバーの、荒々しいまでの力強さに、いきなり心をつかまれた。ピアノもベースも、「ゴツい!」と言いたくなるような弾きようの、疾走するような曲だ。だが、ブラシでリズムを刻むドラムスが加わり、荒々しさの中から「粋」と言いたくなるような端正さが浮かんでくる。
 もう、こうなったら、「愛されたい」というタイトルも優しい二曲目からあと、ときに繊細、ときにブルージーな曲に、のめり込むほかない。六曲目「ウォーキン」もかっこいいが、『ルック・アウト』にも入っていた七曲目「リターン・エンゲージメント」には、しびれた。
 このトリオのアルバムをさらに聴きたくなったが、それ以上に印象深いのが、ベースのジョージ・タッカー。これまでいちばん好きなベーシストだったポール・チェンバースを押しのけそうだ。
 あれ、ジャズが嫌になって、ピアノ・トリオでまた戻るなんて、前にデューク・エリントンの『マネー・ジャングル』を聴いたとき、同じようなことを思っていたっけ。そういえば、『マネー・ジャングル』にも、荒々しさと端正さを感じたものだった。この相反するものが共にあることが、ジャズの魅力のひとつなのかもしれないし、ぼくはジャズのそんなところに、はまっているのかもしれない。
それにしても、恰好いいジャケットだなあ。