天外消失

 さて、ジャズが流れる暖かい部屋で、ミステリを供に夜更かししてみましょうか。
 こんなとき、うってつけなのが、気早なたとえですが、海外ミステリの「福袋」よろしきアンソロジー、『天外消失』(ハヤカワミステリ1819)です。こちらも、今月はじめに出たばかり。
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/211819.html
 このアンソロジー早川書房が出していた〈世界ミステリ全集〉の最終巻、名アンソロジーの名高い『37の短篇』をもとに、そこからさらに14篇を選び編み直したもの。
《収録作品》ジャングル探偵ターザン (エドガー・ライス・バロウズ)/死刑前夜 (ブレット・ハリディ)/殺し屋 (ジョルジュ・シムノン)/エメラルド色の空 (エリック・アンブラー)/後ろを見るな (フレドリック・ブラウン)/天外消失 (クレイトン・ロースン)/この手で人を殺してから (アーサー・ウイリアムズ)/懐郷病のビュイック (ジョン・D・マクドナルド)/ラヴデイ氏の短い休暇(イーヴリン・ウォー) /探偵作家は天国へ行ける (C・B・ギルフォード)/女か虎か (フランク・R・ストックトン)/白いカーペットの上のごほうび (アル・ジェイムズ)/火星のダイヤモンド (ポール・アンダースン)/最後で最高の密室 (スティーヴン・バー)
 ぼくの翻訳ミステリ好きとアンソロジー好きは、この『37の短篇』から始まったようなものなので、旧友に出会ったような嬉しさで、これらの短篇を読み返しました。初めて読んでからもうすぐ30年なので、この「読み返し」は実に新鮮でした。昔は「女か虎か」のような結末の小説がある、というだけで驚いていたものでしたが、今回は「死刑前夜」の語りの巧みさや、「探偵作家は天国へ行ける」のユーモアをあらためて楽しみ、「懐郷病のビュイック」や「火星のダイヤモンド」の、初めて読んだときと変わらない面白さに感嘆しました。
 この14篇からだけでも、「ミステリ」と呼ばれる世界の広さ、豊かさが見えてきます。