シャドウ・ダイバー

 胸が熱くなる本だ。
 ノンフィクションなのに、読んでいる間じゅう、アリステア・マクリーンやジャック・ヒギンズの冒険小説の、それも最良のものを読んでいるときと同じような思いがした。そう、『ナヴァロンの要塞』や『鷲は舞い降りた』を初めて読んだときのような気持ちになった。
 沈没船を探査するダイバーたちが、ニュージャージー沖で発見した潜水艦。これはドイツ軍のUボートではないか? その正体と来歴を追って、彼らは海底に潜り、ひとつのミスが死を招く船内に踏み込む。さらにはアメリカ国内のみならず、ドイツの第二次大戦史料をあたり、関係者の行方を求めていく。
 冒険小説さながらの舞台と人物。歴史上の謎を解くミステリばりの展開。さらに、反目と友情、出会いと別れ、そして再会、さらには紙一重の生死と、人生のさまざまな局面をも描いている。
 事実はかくも面白いのだ、と再認識させてくれる、類を見ないノンフィクションの傑作、と言っていいだろう。
 翻訳について記しておきたい。本書の訳文は非常に自然な日本語で、原文の文意を澄んだ水に溶いて飲むかのように、頭と心にすうっと入ってくる。翻訳書を読むたび、それぞれの訳者の方には敬意と感謝を覚えるのだが、本書はことにそれらを強く感じた。訳者氏に、一礼。

シャドウ・ダイバー 深海に眠るUボートの謎を解き明かした男たち』上下
 ロバート・カーソン 上野元美訳 ハヤカワ文庫NF 2008(初刊 早川書房2005)
SHADOW DIVERS: The True Adventure of Two Americans Who Risked Everything to Solve One of the Last Mysteries of World War II by Robert Kurson, 2004
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/90340.html
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/90341.html