ひとり百物語 怪談実話集

 小説でも映画でも、ホラーは好きだけれど、「実話」となると実は苦手です。映画や小説だと、作り事だと決めてかかるから安心なのですが、本当にあったこと、となると、自分の身辺でも同じようなことが起きそうで、もう怖くて。
 この本は、著者、立原透耶さんご本人の体験をまとめたもので、立原さんがこの本を書けるということは、語り手が死んでしまったり行方不明になったり、ということはないわけだから少しは安心か、と思ったら、やっぱり怖い。第十一夜「怖くない体験」、第十二夜「タカハシさん」のあたりで、読めなくなってしまいました。
 で、まる三ヶ月くらいかけて、怖さに堪えられるペースで読み終えたのですが、そのとき気づきました。
 もちろん実話怪談集、怖い話がたくさん収録されているのだけれど、その中には、理屈では理解しようのない、「向こう側」とでも呼びたいような世界がすぐそばにあって、いつも接しているのではないのだけれど、ふとしたことでそちらに踏み込んでしまう、というような、「恐怖」というより「畏怖」を語っているものが、多いようです。あるいは、怖いのではなくて、「あの世」や「神仏の世界」が、思いのほか身近にあることを感じさせる話も。
 そう思ううちに、ちょっと似た印象の本を、思い出しました。松谷みよ子『あの世からのことづて』(ちくま文庫1988 現在品切)です。こちらも、「向こう側」に触れた体験を聞き書きでまとめた本でした。
 読み終えてから、ぼくにもこんな経験がないか、思い出そうとしてみるのですが、なかなか浮かんできません。もしそんな経験があったら、思い出したら思い出したで、怖くなってしまうのでしょうけれど。
『ひとり百物語 怪談実話集』立原透耶 メディアファクトリー 2009 http://www.mf-davinci.com/yoo/index.php?option=com_content&task=view&id=1174&Itemid=45