荒野のホームズ、西へ行く

 本格ミステリにしてホームズもののパロディ、そしてウェスタンの『荒野のホームズ』は、実に痛快な一冊で、シリーズが続けて邦訳されることを心待ちにしていました。早川書房さんありがとう、念願叶った第二作、発売されるや買って、すぐに読み始めました。
〈オールド・レッド〉と〈ビッグ・レッド〉のアムリングマイヤー兄弟、今回はカウボーイから鉄道会社の探偵に転職し、シカゴ・オークランド間の特別列車に乗り込むが、乗員が変死、積荷には不審物、乗客だって怪しげ。さらには列車強盗団の襲撃も、と、大変な状況のなか苦闘することになります。
 さすがに交通機関蒸気機関車と馬の時代、さらには〈ビッグ・レッド〉の語りゆえ、お話にはどこかのんびりした空気がありますが、危機また危機の冒険あり、ホームズ仕込みの〈オールド・レッド〉の推理あり。舞台のほとんどが列車の中だけに、密室劇さながらのサスペンスと、映画『キートン将軍』や『マルクス二挺拳銃』を思わせる、ユーモラスな活劇の二本立てで、読みだしたら止まりません。
 前作をさらに上回る痛快な一冊。ミステリに限らず翻訳書は売れない、などと聞きはしておりますが、ぜひとも第三作も続けて邦訳してもらいたいものです。そのためにも、この本には売れてほしい、と、ここに御紹介する次第です。
『荒野のホームズ』(ハヤカワ・ミステリ1825)スティーヴ・ホッケンスミス 日暮雅通訳 早川書房2009 ON THE WRONG TRACKS by Steve Hockensmith, 2007 http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/211825.html