スタン・ゲッツ『THE SOUND』

 スタン・ゲッツの「ディア・オールド・ストックホルム」が最初に収録されたアルバムだと聞いて、『THE SOUND』をながらく探していた。ポール・チェンバースの『BASS ON TOP』でこの曲を知って、それからマイルス・デイヴィスジョン・コルトレーンバド・パウエルと、それぞれの演奏を聴いてみたけれど、そのたびにスタン・ゲッツ自身が演奏しているのが、聴きたくてたまらなくなる。ライヴ盤に入っているのを見つけたけれど、晩年の演奏だからか、ゲッツがあまりに好きなように吹いているものだから、「あれ、あのメロディは?」というような印象が残るばかりだった。
 中古CD店を巡り歩いても見つからないので、ネットで探してみたら、あっさり見つかったが結構な高値がついている。古本屋でポケミスの珍しいのを見つけて値段に驚いたときのような感覚を、懐かしく味わいながら迷ったが、思い切って発注。到着を待つ楽しみも、久しぶりに味わうことになった。
 名盤の廉価復刻がさかんなのに、この『THE SOUND』が2002年に出たっきりのは、版権の関係かもしれない。前半と後半、LPレコードでいうとA面とB面が、録音した国もレコード会社も違うのだから。
 でも、そんな事情とは関係なく、このアルバムでは二十代前半のスタン・ゲッツの、溌溂としたテナーサックスを、しんそこ楽しめる。ぼくは「クールジャズ」と言われてもぴんとこないし、言葉の意味を調べてもあまりよくわからないのだが、このアルバムに入っている曲がみな二、三分くらいで、なんとも洒落てこざっぱりしているのが心地よく、ついつい何度も聴いてしまう。この「洒落てこざっぱり」というのが、クールなんだろうな、きっと。
 ガーシュウィンやポーター、デューク・エリントンの曲が、そんなふうに洒落てこざっぱりと演奏される中、スウェーデンの古謡をアレンジしたという「ディア・オールド・ストックホルム」は、そこに哀調が加わって、なんとも忘れられない曲になっている。
 このアルバム、初心者にはわかりやすく、心地よく、かっこいい。聴きなれた人にはきっと、どの曲も深みがあって飽きがこないことだろう。音楽の版権には、素人にはわからない難しいことがたくさんありそうだけれど、チャンスがあればぜひとも再リリースしてほしい一枚だ。そんなときが来たら、ぼくはたぶん、また買ってしまうだろうな。

スタン・ゲッツ『THE SOUND』Roost (1951) → 東芝EMI(2002)
《収録曲》1 Strike up the Band / 2 Tootsie Roll / 3 Sweetie Pie / 4 Yesterdays / 5 Hershey Bar / 6 Gone with the Wind / 7 Standanavian / 8 Prelude to a Kiss / 9 I only Have Eyes for You / 10 Dear Old Stockholm / 11 Night and Day / 12 I'm Getting Sentimental over You
《パーソネル》スタン・ゲッツ(テナーサックス)。1,2:ホレス・シルヴァー(ピアノ)、ジョー・キャロウェイ(ベース)、ウォルター・ボールデン(ドラムス)。1950年5月17日、ニューヨークにて録音。3〜6:アル・ヘイグ(ピアノ)、トミー・ポッター(ベース)、ロイ・へインズ(ドラムス)。1950年12月10日、ニューヨークにて録音。7〜12:Bengt Hallberg(ピアノ)、Gunnar Johnson(ベース)、Jack Noren, Kenneth Fagerlund(ドラムス)。1951年3月23〜24日、ストックホルムにて録音。(スウェーデン語の人名カナ表記がわからないので、欧文のままにしてあります。御容赦のほどを)

スタン・ゲッツ公式サイト(英文)http://www.stangetz.net/index.htm *注意:音が出ます。