都筑道夫ポケミス全解説

 長らく予告されていたフリースタイルの『都筑道夫ポケミス全解説』が、とうとう刊行された。快挙である。
 ポケミス(ハヤカワ・ミステリ・シリーズ)のフォーマットを踏襲した平野甲賀さんの装丁で、572ページという分厚さ。111本の解説と、「ぺいぱあ・ないふ」33回が収録されている。編集をされた小森収さんのご苦労は想像するに余りあるが、造本も内容も素晴らしい本書を手にすると、そのご苦労は充分に報われたのではないか、と思われてならない。
 そして、この本を企画、出版したフリースタイルにも、拍手を送りたい。ただ拍手をするだけでは届かないので、まず買って、読んで感想をここに書いて、まだ買っていない人にお薦めする次第。
 都筑道夫という人の大きさ、ミステリへの深い愛情が、どこを開いても伝わってくる。どの解説も、ミステリの歴史と伝統を熟知した目で、新たな試みや変容を読者に紹介し、古典作品もまた、新たに目を向けるべきところを、的確に紹介している。インターネットのある現在でも、けっこう大変な書誌情報の収集など、1950年代にはいったいどのようにしていたのだろうか、資料としても貴重だ(本書編集者のフォロウが、さらに資料としての価値を増している)。
 もちろん、この本の価値は、資料的なものだけではない。解説のひとつひとつが、ミステリ・エッセイとしても、なんとも味わい深いものだ。文章のあちこちに、映画や落語など、都筑さんがミステリ同様に愛したことがらが顔を出すのも愉しく、ひとつひとつゆっくり読むあいだは、まさに至福のときを過ごす思いだった。
 本書を読んで、これらの解説が付されたポケミス古書店で探し、読みたくなった。それだけ、都筑さんの文章に力があるということだろう。半世紀たっても、その力が薄れてもぼやけてもいないのは、驚くべきことだ。読み終えてからもう何日も、古本屋巡りをしたくてしかたがない。今日あたり、出かけてみよう。
 お、あなたももうお読みですか。え、古本屋でどのポケミスを探すかって? それは言えませんよ。あなたに先を越されてしまう。

都筑道夫ポケミス全解説』都筑道夫著 小森収編集 フリースタイル 2009 本体価格2700円
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