殺人をしてみますか?

 さて、1950年代の名盤を聴いていたら、同じ時代のミステリが読みたくなってきました。
 そこで手に取ってみたのが、ハリー・オルズカーの『殺人をしてみますか?』。1958年の作品で、翌年にはもうハヤカワ・ミステリの500番として邦訳されました。早い!
都筑道夫ポケミス全解説』では、この本の解説のほかに、邦訳前の紹介である「ぺいぱあ・ないふ」も採録されていて、そちらのほうが、この作品の持ち味を濃く伝えています。解説ではあまり中身に立ち入ることはできないけれど、未訳作品の紹介ということなら、やや立ち入っても大丈夫、ということなのでしょう。でも、一見コメディ、実はエラリイ・クイーンばりの本格ミステリ、と言っても、売りにこそなれネタを割ることにはならない、と思うのですが、都筑さん、いかがですか?
 TVの人気クイズ番組で、次々正解を出して勝ち進み、高額な賞金を目の前にしている回答者が殺されてしまう。すわ一大事、と、制作会社の宣伝担当ピートが、犯人捜しに駆け回らざるをえなくなる。ピートだけでなく、彼の秘書や同僚があれこれ推理をめぐらせます。おかしくて怪しげなTV業界を舞台にしたドタバタの中、ちゃんとデータは提出されていて、解決編では登場人物が一堂に会したところで、犯人が名指されます。
 ポケミスだけでなく、ハヤカワ・ミステリ文庫にも収録されたので(1978年)、古本屋やネット古書店でも、手に入れるのはさほど難しくはないでしょう。この楽しさ、探して読んでみるだけの価値はある一作です。
 ユーモア・ハードボイルド風の書き方で実は本格ミステリ、ということから、本書の前年にやはりポケミスから邦訳された、デイヴィッド・アリグザンダーの『恐怖のブロードウェイ』(原書1954)を思い出しました。1950年代のアメリカのミステリには、それが一つのスタイルだったのかもしれない、と思うと、他にどのような作品があるか、探して読んでみたくなりました。

『殺人をしてみますか?』(ハヤカワ・ミステリ500) ハリー・オルズカー 森郁夫訳 早川書房1959
NOW, WILL YOU TRY FOR MURDER? by Harry Olesker, 1958