ニューヨークの野蛮人

都筑道夫ポケミス全解説』(フリースタイル)からは、編集者時代の都筑さんの、海外の新しいミステリを紹介する気迫のようなものが感じられて、まず本そのものが面白いのですが、その頃のものをはじめポケミス全般を、あらためて読んでみたくなる一冊でもあります。
 それで、ここのところポケミスづいているのですが、今日読み終えたノエル・クラッドの『ニューヨークの野蛮人』もまた、都筑さん御紹介の一作。解説ではなく、《エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン》1959年4月号の「ぺいぱあ・ないふ」で取り上げたもので、そちらも『全解説』に収録されています。なんとも熱のこもった紹介文に、読みたくてたまらなくなり、神保町でうろうろ探してしまいました。
 クリスマスを間近に控えたニューヨーク。仕事の依頼を受けたショショーニ族の殺し屋トリーが、標的のS・ハリスを捜しだすと、Sはスーザンで、まだ若い女だった。これまでに女を殺したことはなく、これからも殺したくないトリーは仕事を降りたい、とボスに申し出る。代わりに来る殺し屋に申し送るため、彼女の身辺を調べる彼は、スーザンの幼い息子の姿を見て、自分が殺すのはもちろん、後任にも殺させたくなくなってしまう。
 年端もいかない子供と二人暮らしの女が、なぜ狙われるのか。彼女が死ぬことが誰の利益になるのか。殺しの期限はクリスマス当日。スーザンを守ろうと、残り少ない時間のなか、孤立無援のままトリーは奔走する。
 登場人物といい、シチュエーションといい、それらがきっちり結びついてサスペンスを盛り上げるプロットといい、実に見事。それに加え、クリスマスをひかえて賑わう大都会のさまが、出身地も人種も職業もアウトサイダーである主人公トリーとの対比で、なおさらに鮮やかに浮かんできます。伏線もこまやかで、結末も忘れがたく、都筑さんの熱意にも納得。まさに傑作といえるでしょう。ぼくの個人的な印象としては、デイヴィス・グラッブの『狩人の夜』に、どこかしら似通ったものを感じたのですが、都筑さんが連想したのはグレアム・グリーンの『拳銃売ります』のようで、こちらも読みたくなってきました。
 見つけるのにはちょっと時間がかかるかもしれませんが、ネット古書店という手もありますので、値段が高すぎなければ、買ってお読みになっていただきたい一作です。ハヤカワ・ミステリ文庫に収録してもらえるなら、それが一番なのですが。

『ニューヨークの野蛮人』(ハヤカワ・ミステリ866)ノエル・クラッド 宇野輝雄訳 早川書房1964
THE SAVAGE by Noel Clad, 1958