リンカーン弁護士

 愛車リンカーンを「動く事務所」に、ロスアンジェルスじゅうの裁判所から裁判所へと駆けまわる弁護士、ミッキー・ハラー。一見簡単な訴訟を引き受けたばかりに、彼は自分ばかりか、仕事仲間や別れた妻子の命まで危険にさらす窮地に追い込まれる。
 マイクル・コナリー初の法廷ミステリ。訳者あとがきにあるとおり、予備知識も何もないまま、コナリーの腕を信じて読むのが、この作品との最良の付き合いかただろう。とりあえず、と上巻だけ買ったら、読み始めてから大変な目にあう。先へ先へと読みたくてたまらなくなり、下巻を手にするまで苦悶の時を過ごすことになるのだから。上下巻約八百ページを一気に読ませる、まさにページターナー
 この楽しさ、人に語りたくてたまらないのだけれど、やはり何も知らないで読むのが一番、私見は差し障りのない蛇足までにさせていただく。訳者あとがきに、コナリーが十二歳のときにハーパー・リーの『アラバマ物語』を読んだことに触れた箇所がある。『アラバマ物語』は弁護士アティカス・フィンチ一家の物語で、後半は法廷ミステリとして読んでも面白い。ミッキー・ハラーの父もまた弁護士だったのだが、ほんの少しだけ語られるその父、J・マイクル・ハラーに、フィンチを思い出すものを感じたので、あとがきを読んで深く納得した。

リンカーン弁護士』(上下)マイクル・コナリー 古沢嘉通訳 講談社文庫 2009
THE LINCOLN LAWYER by Michael Connelly, 2005