マイクル・コナリー『エコー・パーク』

 マイクル・コナリーのミステリを読んでいて、実際のページ数以上のボリュームがあるように思えてならないときが、しばしばある。文章が簡潔で、伏線が綿密なだけに、読んでいるあいだ緊張感がとぎれないからだろう。もちろん、この緊張感は、実に心地よい。また、展開が早くて、要所要所にひねりを利かせているから、ということもある。サスペンスフルで、読みだしたら気が抜けない。コナリーの前に読んだ本がかすみ、後に読む本が割を食うほどの密度の高さ。同じプロットを別の作家が書いたら、本はもっと厚くなるにちがいない。
 この最新の訳書『エコー・パーク』もまた、その好適なサンプルと言っていいだろう。十三年前の少女失踪事件を追い続けていたハリー・ボッシュは、その鍵を握っているらしい死刑囚ウェイツと対決せざるをえなくなる。だが、もちろんこれは発端でしかない。予測のつかない流れの中、ボッシュはその身を危険にさらしながら、事件の背後にひそむものと闘うことになる。それが何かは書かない。予備知識が少ないほど楽しみが増す、と多くの人が言うコナリーのミステリだが、本作もまた例外ではないのだから。
 長きにわたるハリー・ボッシュ・シリーズは、どれから読めばいいのか迷ってしまうが、この最新の邦訳、十二作目の本作から読んでみるのも、いいかもしれない。昨年に邦訳された傑作『リンカーン弁護士』と甲乙つけがたい面白さだ。これまでシリーズを飛び飛びにしか読んでいなかったぼくは、旧作を発表順に読みたくなった。順調に読み進めていけたら、本作を読み返すのも遠くはない。それも楽しみの一つ、と思いつつ、第一作『ナイトホークス』を本棚から発掘してみた。
 なお、《翻訳ミステリー大賞シンジケート》のサイトに今月半ば掲載された、訳者・古沢嘉通氏の御寄稿「初心者のためのマイクル・コナリー入門」の御一読をお薦めします。
http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/20100413/1271091054
『エコー・パーク』上下 マイクル・コナリー 古沢嘉通訳 講談社文庫 2010
ECHO PARK by Michael Connelly, 2006
http://www.bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2766272&x=B
http://www.bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2766280&x=B