映画『ウルフマン』

 実にオーソドックスな狼男もののホラー映画だ。オリジナル脚本がカート・シオドマクというから、1941年の『狼男の殺人』(これはTV放映時のタイトルだとか。『狼男』としてDVDリリースされている)のリメイクなのだろうか。そちらは見た記憶がないので、なんとも言えない。
 物語はオーソドックス、いや、古風と言っていいほど。画面は美しく、どのくらいCGを使っているのかはわからないが、特殊効果にも目を奪われた。変身のシーンはもちろん、自然なほどに現実感のある殺人シーンのスプラッタ描写にさえ。狼男のメイクがあの懐かしい顔なのは、あえてそうしているのだろう。
 こういう映画に新味を期待してはいけないのだろう。オーソドックスで丁寧なつくり、映像の美しさ、そして、ややクセの強い名優たちによって、古き良き映画が甦ったことを祝うのが、より良い見方という気がする。
 だから正直な話、映画館を出てから、その「古き良き怪奇映画」ぶりに少々ぽかんとしてしまった。が、帰り道にぽかんとした頭に浮かんでくるのは、湖畔で小石を投げるベニチオ・デル・トロエミリー・ブラントの姿だったり、憎々しい演技を楽しげにするアンソニー・ホプキンスの目つきだったり、ヒューゴー・ウィーヴィング演じる刑事の不敵さや、年老いた占い師を演じるジェラルディン・チャップリンの悲しげな表情だったり。
 見終えてから、次第に印象が鮮やかになってくる。近頃では、こんな映画は、ちょっとなかった。五月の連休に合わせた公開なので、拙文が人目に触れるころには、上映館は少なくなっていることだろう。でも、ホラー映画を愛する人ひとりでも多くの目にとまるよう、願っている。
 普段はあまりしないことだが、書店に寄ったとき、この映画のノヴェライゼーション(ハヤカワ文庫FT)を見つけたので、買った。映像を思い出しながら読むのが楽しみだ。

『ウルフマン』THE WOLFMAN 2010年アメリカ映画
監督:ジョー・ジョンストン 製作:スコット・ステューバー、ベニチオ・デル・トロ、リック・ヨーン、ショーン・ダニエル 製作総指揮:ビル・カラッロ、ライアン・カヴァナー 脚本:アンドリュー・ケヴィン・ウォーカー、デヴィッド・セルフ オリジナル脚本:カート・シオドマク
出演:ベニチオ・デル・トロ(ローレンス・タルボット)、アンソニー・ホプキンス(ジョン・タルボット卿)、エミリー・ブラント(グエン・コンリフ)、ヒューゴ・ウィーヴィング(アバライン警部)、ジェラルディン・チャップリン(占い師)他

http://wolfman-movie.jp/