ジャニータ・シェリダン『金の羽根の指輪』

翡翠の家』『珊瑚の涙』に続く、新進作家ジャニス・キャメロンと、義姉妹リリー・ウーが活躍するミステリ・シリーズの第三作が邦訳された。
 マウイ島の牧場主ドンが行方不明に。妻レスリーの留守中、いとこのハワードは相続権を盾に、牧場を我がものにしようと画策する。ドンとは旧知のジャニスは、レスリーを助けようと牧場に急行するが、すでに不穏な空気が支配するなか、パニオロ(牧童)の一人が殺された。事件の犯人は誰? ドンの生死は? そして、ジャニスとリリーはレスリーと牧場を守ることができるか?
 美しく豊かな風土の中での、人間の欲と悪意。シンプルな展開の中いや増すサスペンスと、舞台ゆえのおおらかなユーモア。そのコントラストに最後まで引き寄せられ、一息に読んでしまった。どれを読んでも面白いシリーズだが、サスペンスでは本作が抜きん出ている。ことに忘れがたいのは、ハワイ諸島の歴史や伝統文化、先住民への理解と敬意が、端々から感じられることで、これは著者のハワイへの愛情だけでなく、自身の数奇な経験にも裏打ちされているのだろう。
 ジャニスとリリーのシリーズは、一九五三年の第四作 THE WAIKIKI WIDOW で完結する。邦訳が待ち遠しいかぎりだ。なお、ハリウッドで映画のスクリプトを学んだシェリダンは、このシリーズを終えたあと、映画やテレビドラマの世界に戻るが、彼女が手がけた『ハワイアン・アイ』のエピソードに、同題の一篇があるという。シェリダンが自作をアレンジしたかどうかはわからないが、気になるところだ。

『金の羽根の指輪』ジャニータ・シェリダン 高橋まり子訳 創元推理文庫 2010
THE MAMO MURDERS by Juanita Sheridan,1953
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488149062

(前二作のご紹介は下記に)
http://d.hatena.ne.jp/uncle_mojo/20090317/

【追記】
本日(7月23日)、翻訳ミステリー大賞シンジケートのブログで、上條ひろみさんが本作を御紹介になり、杉江松恋さんも応援してくださっています。これを機に、第四作の邦訳が実現すれば、と期待しています。
http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/20100723/1279846043