猫の匂いのする侍

『猫の匂いのする侍』芦川淳一 双葉文庫 2009
『若竹ざむらい』に続く《おいらか俊作江戸綴り》の第二巻。主人公も作品の色調も陽気で、爽快なシリーズなので、続きを楽しみにしていました。
 五章立ての連作長篇で、あちこちにミステリ味が利かせてあり、滝沢俊作は第一章で失踪した飾り職人を捜し、第二章では辻斬りに見せかけたミッシング・リンク殺人の謎を解くのですが、注目すべきは第三章「かどわかし」。手習い所の帰りに豆腐屋の息子が誘拐され、裕福で知られる小間物屋に身代金を要求する投げ文が届く、という発端に膝を叩く人は、けっこう多いのでは。誘拐ものの傑作への、そしておそらくはその映画化作品への、作者のオマージュでしょう。身代金受け渡しの方法は、時代小説ならではのものと思います。
 文庫書き下ろしの時代小説はとても多く、熱心な時代もののファンでも追いきれないほどだ、と聞いたことがありますが、海外のミステリが好きな読者のツボを刺激する作品は、なかなかないのではないか、という気がします。早くも続巻が楽しみになりました。